どれくらいの時間、三角さんとお話をしていたのかわからない。でも楽しいひとときはあっという間にすぎてしまうというくらいだから、それなりに長い時間は経ってしまったのかもしれない。
話題も尽きてきて、じゃあそろそろ腹をくくってあの穴を通ろう、と思い立ちあがる。今度は三角さんに止められることはなかった。もしかして足止めされたのは、彼もわたしと話をしたい、と考えていてくれたからかなあ……なんて。

「……三角さん。わたし、行くね」

わたしは穴の前に立ち、三角さんの方を振り返る。すると彼は、ゆっくりと頷いた。

「よ、よし…!」

うぞうぞ、とうねるひだに思いきって腕を入れてみる。その瞬間、ひだはわたしの腕に吸いつくようにくっついてきた。きもちわるい!くすぐったい!自分から押しこむことに抵抗があって動かせなくても、ひだの方からグイグイと引っ張られて、わたしはあっという間に肩まで穴の中に入ってしまった。実はちょっとだけこわいと思ってしまっているけれど、あの三角さんが導いてくれたところなのだから大丈夫、だなんて大きな信頼がわたしの中にあった。

頭が飲みこまれるというときに、わたしはなんとなく三角さんに視線を送る。彼はずっと同じ場所に佇んで、微動だにせずにわたしを見つめていた。……なんだろう、なにか伝えたがっているように感じる。でもそれを尋ねることはもうできない。

そうして、とうとうわたしの全身が、ひだの中に吸いこまれた。

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