誰かがついてきているのではないか、という不安や恐怖から後ろを振り返ってみるけれど、ただの暗闇が見えるだけ。大丈夫、大丈夫。誰もいない。落ちついていこう。

「それにしても、……」

そろそろ曲がり角が現れてもいい頃だと思うの……。わたしの言葉が廊下に反響する。ずうっと向こう側まで伝っていって、同じ言葉が返ってくる。でもそのこだまの中に、明らかにわたしの声ではないものが混ざっていることに気がついた。

「…この音、もしかして」

ひっそりと心の隅っこで、会いたいと願っていた彼ではないか。聞いたのは随分と前なように思える、重い金属を引きずる音。ゆっくりと、でも着実に、こちらへ向かってきている。
わたしは無意識の内に小走りになっていた。この音のもとは、絶対に彼だという確信が、確かにわたしの中にあったからだ。
かるい足音と重たい引きずる音がだんだんと近づいていって、そして重なる。そのとき廊下の先の暗闇から、ユラリと大きな身体をしたヒトが現れた。ああほら、やっぱり。

「三角さん……!」

あの、三角の頭をした彼だった。
彼の近くに走りよると、またあの時のように頭をなでてくれる。強い力に頭が上下に動くけれど、彼の手は案の定優しくて心地がいいなあと思った。それに身を任せていると、三角さんはわたしの手を取って進みだす。

「……もしかして、案内してくれるの?」

そう質問すると、三角さんは頷いた。わたしはジョシュくんに教えてもらった道が曖昧だったので、彼の親切に甘えることにする。再会することができた三角さんは、わたしにとっての救世主なのかもしれない、なんて考えながら、手を引かれるまま歩きだした。

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