睡魔に身をゆだねる前、わたしはあの三角頭を味方だと言った。その言葉に嘘偽りはないけれど、それがまるで導かれたかのように口から紡がれたということが不思議だった。行為には至ってはいないといっても、限りなく近いことをされたのいうのに。自分の足をなで回されたときは本当に怖かったし、いっそころしてとすら思った。
問題はその後だ。どうして彼は、わたしが泣いていると慰めととれる行動に移るのだろうか。初めて会ったあのときも、そして眠る前もなでてくれた。大きな手はわたしに安心感を与えてくれる。彼の手から伝わるのは温かい感情で、それはわたしの警戒心をときほぐし、ぽっかりとあいた心の隙間をうめてくれるようだった。

そんなことを考えていたら、三角頭のいないこの空間がやけにさみしい、と思ってしまった。それが自分でも信じられなくて、きっと気のせいなのだと頭を振る。変な情を、持ってはいけない。

とりあえず今の状況を整理してみると、起きたら一人だった。そして屋内がなぜか綺麗になっている。あの赤く錆にまみれた、薄汚い部屋ではないのだ。たしか例の男に攫われ、目を覚ましたときはこんな雰囲気だったような気がする。部屋の中の作りは眠る前と同じだから、移動したわけではないと思う、のだけれど……。考えれば考えるほど意味がわからないし、頭がついていかない。

「と、とにかく、出口探そう」

懐中電灯はどこにやったかな、と考えて、そういえば看護師に襲われたあの場所に放置してきてしまったことを思い出す。でも幸い明るいので、もしかしたら進めるかもしれない。また化け物に遭遇することを想像すると腰が引けるけれど、ここも安全かわからないのだ。……目一杯警戒していけば、いいかな。

わたしはへっぴり腰で扉を開いた。

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