嫌な予感は的中して、同僚は約束の場所にはいなかった。リチャードが書いたと思われるあの血文字が壁に残っているだけで、ひとの気配を感じない。やはり、彼女は……。
左目の奥がジクジクする。鈍痛が続き、皮膚が突っ張る感覚もして頭がボーっとしてきた。……いたい、なあ。視界は靄がかかったように白けてきている。

なんでこんなことになってしまったのだろう。どこで間違えてしまったのだろう。わたし、なんにも悪いこと、してないのに。……きっと運が悪かったんだ。そう言い聞かせるしかない。
お父さんもお母さんも、悲しむかな。そういえば、忙しくて実家には暫く顔を出していなかった。あまり親孝行なこと、できなくてごめんね。なんて呟いても、意味なんてないかな。

ビリーには申し訳が立たない。あのときわたしが、もっと強く説得していれば、こんなことにはならなかったはずなのに。全部全部わたしが悪いんだ。わたしがビリーを巻き込んでしまったんだ。

頭が重い。ズシリと重石を乗せられているように項垂れる首。足なんて随分前から引きずっている。瞬きしても目が見えなくなった。
ガクン、とうとう膝から力が抜けて地面に伏した。べちゃりという効果音がピッタリくるような無様な姿。ああいやだな、多分意識が飛んでしまう。……もしかして死ぬの?ビリーを助けることも、謝ることもできないまま?……いやだなあ。死にたくない。ビリーに会って、ごめんねって言わないといけないのに。彼は優しいから、きっと「ナマエのせいじゃないよ」って言って、笑って、許してくれるんだろうなあ。
昔からビリーの優しさに救われてきたことは、たくさんあったのに、わたしは何にもしてあげられなくてごめんなさい。

死にたくないよ。でも身体がいうことを聞いてくれやしない。目の前が暗く、黒くなって───……。

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