俯いた顔、その両目から滴り落ちる透明な涙が地面を湿らした。
両足は石にでもなったかの様にその場から動かず、少年は立ち竦む。


「ねぇどうして泣いているの」


天使の様に無垢な笑みを浮かべて少女は問いかける。
少年は顔も上げずに答えた。


「動けないんだ」


足が重くて、見えない壁に遮られて。
心が痛くて、苦しくて。
もう駄目だと諦めの言葉を今にも叫び出しそうなんだ。


「そっか」


短い返答、先程から変わらない笑みを向けたまま彼女は言葉を続けた。


「それで終わるのかな?」


君の挑戦は。
途は全て遮断された?


「本当に途は一つなのかな」


進むべき途は。
模索する前に逃避を選んでいない?
全て閉ざされて。


「もう後悔は無いんだね?」


そうやって言い聞かす様に呟く彼女の声。
その声を否定したかった、今直ぐに耳を塞いで叫び出しかった。
全て探したのだと!抗ったのだと!
しかし喉の奥に絡みついた言葉は音にはならない。
そして目が瞬間的に目覚めた感覚を覚えた。


(嗚呼、そうか)


彼は全てを受け入れた。
途を塞いでいたのは己の逃避。
途は一つでは無い。
まだ全て閉ざされた訳では無いのだ。
暗転していた世界に光が差し込んだ様に目の前が輝いた気がした。
そうして俯かせていた顔を振り上げ、涙を強く拭う。


「ありがとう」


久々に浮かべたその表情は苦悶に満ちた顔でも苛立ちに任せた怒りでも無い、晴れやかなる笑顔。


「大丈夫、貴方はまだ途を進めるの、諦める事は何時でも出来るのだから」


さぁ、諦めないで。
とん、と優しく背中を押された。
それを合図の様に深く、深く、透明で新しい酸素を身体に吸い込み、動かなくなっていた両足を強く叩き、一歩を踏み出した。
重いと思った足取りは意外にも軽いもので、今まで込めていた力は無駄なものだったのかと久々に声に出して笑った。








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