彼女の腕には蝶が舞っていた。
例えるならば、その言葉がふさわしいと思う。
それをじっと見ている事に気付いたのか、ふと笑みを浮かべながら、深い青で彩られたそれを、そっと撫でる。


「貴女にはどう見えるこれが」
「綺麗だと思います」
「そう?本当に綺麗だと思う?」
「えぇ」


本音を口にした以外、変わった事を言ったつもりは無いのだが、何かツボにはいったようで、彼女は肩を震わせてわらう。


「貴女は、貴女の心がきっと綺麗なのね」
「言ってる意味がわかりません」
「良いのよ分からないままで」


だって私自身も良く分からないもの。
そうやって呟きながら、またわらう。
でも『嗤って』いても、『笑って』はいない。


「蝶が好きなのですか」
「んー?別に」
「じゃあ何故、蝶を入れたのですか」
「なんでだろうね」


きっとあの時は何でも良かったのだ。
ただ、何でも良いから証が欲しくて、一生消えない何かが欲しくて。
自傷に似た衝動が駆け巡り、この腕にこれを刻ませた。
あぁ、そう言えば。


「目の前に、蝶が飛んでたんだ」


花を探し、ひらひらと飛んでいた一匹の蝶。
初めて見た訳でも無いのに、何故か目が離せなくて、一瞬、腕に止まったのが印象的で。


「きっとあの蝶を手に入れたら、何か変わるんじゃないかと思ったのかもしれない」
「なにか、変わりました?」
「まだ分からないなぁ」
「後悔はしてないのですか」
「…してない、しようとも思わない」


腕に視線を落とし、本物とは違い、動かないままの蝶を愛しむ様に見つめる。


「私の抗いの証だもの、後悔なんてする事がある筈ないわ」


呟く様な小さな声音であったが、その言葉だやけに耳に残ったのが印象的で、少しだけその蝶が羨ましく思えた。





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