※自傷、グロ表現有り。
理解の無い方は即リターンをお願いします。






「マゾって確かに異常だけど、ある意味正常な人間って事だと思うなぁ」


だから、自分は『正常だ』と云う事を肯定したいだけかもしれないな。
嘲る様に嗤いながら、ソファに仰向けで倒れ、カッターを持った右手をだらんと投げ出し、左手首から絶えず流れる紅い血を気にせず腕を天井へと延ばす。
こんな事が正常であれば、異常とは何の事であるのだろうか。
手首からつうっと腕へと血が流れるその様子をただボンヤリと見ていた。
すると、扉の向こうよりノックする音が届き、遅れて聞き慣れた声が届く。


「入るよ」
「どーぞー」


流れた血を特に隠す気もなく、間の抜けた返事を返すと、ガチャリと開けられた扉。
そして部屋の様子を一瞥し、予想通りとでも言いたげな表情を浮かべる幼なじみの眞崎の姿があった。
驚く訳でも、心配する訳でも無く、無表情で一言。


「何かあったか?」


それも何時も通りの事で、そして自分の返答も何時もと同じくこの一言。


「別に」


気怠げにソファーから上半身を起き上がらせ、出し放しにしていたカッターの刃をしまい込み、テーブルに投げ捨てる。
未だ左から紅いものは流れ続けていた。
今切っただけの傷だけでは無い、腕全体には刻まれた傷跡が無数に存在している。
その殆どは自分自身で付けたもので、だからと言って、後悔をしている訳では無かった。
死にたいから、とかそんな重い事を考えた訳では無くただ何となく。
そんな思考から始めて、今や習慣と化してしまったこの行為。
何の意味も無い事を知っていながら、止められもしない。


「眞崎にとって血ってさ、どう思う」
「どうってなんだよ」
「怖い、とか、綺麗、とかさ」
「別に、何とも」
「俺さ、紅い血見てるとさ、『生きてるんだ』って思う訳だよ」
「ふーん」
「カッターの刃が皮を裂いて、肉を抉ってその痛みも込めて、痛いって素晴らしい事だなと思うんだよ」


痛みは生きてる証。
血液が流れ出す事、それも生きてる証。
痛みに鈍くなる方が恐ろしいと思う。
傷付いてる事すらも気付かずに、緩やかに窒息して死んで逝くような屍には成りたくない。
だからと言って、自傷と云うこの行為をして小さく抗う事は無意味なのかもしれないけれども。


「俺、やっぱりマゾなのかな」
「別に、普通なんじゃないのか」


ただ、他人より生きる事に必死なだけで。
それを誰が責める権利があると云うのか。
嘲笑われる事や非難される理由は何処にあると云うのか。


「取り敢えず手当てするから腕出せ」
「……あぁ」


流れ出した血は、空気に触れ既に乾き始めていた。
この行為は何時まで続けてしまうのだろうか。


(一層の事、終焉を迎えてしまえば良いのかもな)


それでもまだ、生きる事に絶望しきれない自分自身が虚しかった。








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -