夢を見た。
それは幸福と言えるには程遠く、悪夢と呼ぶ事が相応しいものであった。
光の中に曾ての友がいた。
穏やかな微笑を浮かべ、手元には銀色に輝く十字の飾りを固く握りしめている。
微かに唇が動いたかと思えば、ゆっくりと光の元へと向かって行く。
待ってくれ。と手を伸ばそうとするが、その背に届く筈もなく遠ざかって行った。
そしてもう一人。
心を狂気させる程に美しく愛しい妻。
最期まで己に見せる事の無かった自然の笑みを此方へ向け、艶やかな漆黒の髪を風に靡かせ、友と同じ様に光へ消えて行く。
瞬間、我を忘れる程に絶叫した。
何故だ、何故だ、何故だ!!
『神』とは何だ。
人々を導き、時に恐れられ、しかし偉大な存在であると彼等は告げる。
しかし、信じた者達の末路は。
それが神の導きだとでも云うのか。


「…………っ!」


唐突に現実に引き戻され、飛び起きる様に上半身を起き上がらせた。
息が上がり、動悸が激しい。
気持ちを落ち着かせる為に深く息を吸い込み、内側に籠る蟠りを吐き出す様に長く息を吐く。
辺りが静寂に包まれている。
深夜の闇に目が慣れず、それに慣れるまでぼんやりとした意識の中、過去に記憶を馳せる。
とうに亡くした者達。
異教に傾倒し、時代の波に呑まれたとも思える生き様。


「俺は、独り…か」


去来する空虚感。
哀しい訳では無い。
だが、物足りない感覚が拭えず、違和感が常に付きまとう。
異端を拒絶しつつ、異端者を受け入れると云う矛盾。


「間違っていたのは奴等では無く俺だったのか?」


俺はただ己の路を貫いただけだ。
そうやって自分を正当化させたいだけなのでは。と疑う声が何処からか聴こえて来る様だった。
頭を振り、急な脱力感に襲われた忠興は、茵に潜り、思考から逃げるように再び深い闇へ身を委ねた。


(嗚呼、神よ)


貴方は何の為に存在するのですか。
彼方に問う様に小さく呟いた言葉は音になる前に消えた。





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -