最近気付いた事がある。
否、気付かない振りをしていただけなのかもしれないけれど。
ふと、聞いてみようと思った。
好奇心と云うより、ちょっとしたわだかまりを消したい気がしたから。
「母上は兄上が怖いのですか」
まるで汚いモノをみる様に、全てを否定したいかの様に、日頃から兄・政宗への当りが強い母。
たが、瞳の奥に、誰にも悟らせない様にと隠す、揺らいだ光が宿る事がある事を小次郎は知っていた。
「兄上は、僕と違うのですか」
一瞬、ほんの一瞬、いつも崩れる事の無い笑みが表情から消える。
直ぐに何時も通りの、兄上には決して見せない慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
それ故に、小次郎は間違っていなかったのだと確信を得る。
「小次郎、貴方は優しい子ね」
母の柔らかな手の平が頬を優しく撫でる。
そしてその手とはまた違う、大きく逞しくも優しげに頭を撫でる姿が脳裏を掠めた。
「兄上も、とても優しい人です」
はた、と小次郎の頬を撫でていた手が止まる。
そして其所から手を離し、ふと視線を逸らした。
「……そうね、あの子は優しい子、けれども…」
それ以上言葉は紡がれない。
だが、母の瞳には人知れず何かが見えている様に思えた。
(兄上は龍をその内に飼っているのだ)
昔、政宗の背を追い掛ける時、幼心ながらそう感じた。
もしかしたら母にも見えているのかもしれない。
やがて空へと昇る龍のその姿が……――。