――……大谷刑部が病に掛かられたそうな。
――……なんでも業病らしい。
――……何と…、恐ろしい事だ。
――……うっかり移されたら……、あぁ想像するだけで薄ら寒い……――。


(噂とはこうも早く流れてしまうものなのだなぁ)


吉継は、空気の入れ替えの為にと微かに開かれた窓に視線を向け、隙間から覗く空を見つめる。
其処ら中に広がった噂、まるで他人事の様な素振りで聞き流す。
事実、病を発症した事は紛れも無い真実であり、少しずつではあるが症状も進行していた。
今では、崩れ始めた皮膚を隠す為に、顔を白い頭巾で大半が覆われている。
こっそりと溜め息を溢した時に、襖の向こうから聞き慣れた声が耳に届く。


「殿、起きておられますか?」
「五郎か、入っておいで」
「失礼致します」


短い返答の後に襖が開かれ、真面目一筋と云う様な顔付きの青年がゆっくりと部屋に踏み入れた。


「お加減は如何でしょうか」
「身体は元気なものだよ。巷では私が病回復の為願掛けの為と称した辻斬りが出ているだとか」


自嘲気味に、近頃耳にした噂を口にする。
同時に、喉の奥が塞がれる様な苦しさを感じたが、きっと気のせいだと思い込もうとした。
五郎は、眉間に深い皺を作りつつ、きっぱりと言い捨てる。


「そんなもの根も葉もない噂です」


まるで、自分の事の様に、怒りを感じてくれている家臣の姿ににそっと笑みを溢す。
害意の無い悪意だ、そう思い込もうとも、やはり心が痛むのも事実であって。


「病に掛かろうとも、何になろうとも殿は殿、でしょう?」
「………あぁ、私は何も変わりはしないよ」


本当に、己の友人といい、家臣達といい、どうしてこんなにも優しい者達が居てくれるのだろう。
目頭が熱くなっている事を気付かれないように再び青々とした空を見つめた。





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