「刑部は、治部側に付くって本当?」
「はは、金吾殿の耳は地獄耳と云うやつですか」
「茶化さないで欲しいな、正気なの刑部?」
「私が、病に恐れをなして狂ったとでもお思いですか」


思わず下唇を軽く噛みながら口を噤む。
図星を指された訳では無い、自分のもう一つの予想を言葉無く肯定されたからだ。


「金吾、私はね戦場で散る事を夢みたいんだ」
「もう目も殆ど見えていない、自分自身で動く事もままならないのに、」


そんな状態で戦場に行くなど。


「『死に急ぐだけだ』といいたそうですね」
「…違うとでもいうの?」


すると、顔を覆った白い布に隠され見えないが、困った様に苦笑いを浮かべている様に思えた。


「確かに、死に場所が欲しいのもあるのかも知れませんがね」
「じゃあ、治部、の為?」


再び返答は無い。
秀秋の中では、当て嵌まる感情の名前が浮かばないまま荒れ狂う。


「ずるいよ、治部は」
「金吾殿」
「とと様にも、刑部にも贔屓にされて」


自分は用済みだからと見捨てられたのに。
嫉妬、羨望、怒り、様々な感情が秀秋を包む。


「ずるいよ、ほんとに」
「金吾殿」


たしなめるその声は甘く、優しい。
その病を恐れた時も、変わらないその声で許してくれた。
けれども、やはり最終的には自分は一番に選ばれる事が無いのだ。


「ねぇ、刑部。僕はどうすれば良いと思う」

半ば投げやり、半ば本気でその一言を呟いてみた。
その時点で吉継が、その問い掛けにどう答えるかなど、とうに検討ついていたが、敢えて無視をしてみた。


「それは、金吾殿が決める事ですので、老いぼれは口を噤ませて戴きます」


あぁ、やっぱり治部はずるいよ、皆の優しさを一人占めして。
そして刑部もずるいと思う。
その優しさを一番にくれない癖に、何処までも包み込む様な優しさが込められている。


(いっその事、突き放してくれればいいのに)


それでも、与えられる優しさに喜び、そして泣きそうな事を必死に隠し、立ち上がる。


「分かったよ、刑部。…ごめんなさい」
「何か謝られる事なさいましたかな?」
「何でもない、帰るよ」


そのまま逃げる様にその場から立ち去る。
何故、謝罪の言葉が出たのか己自身でもわからなかった。
けれど、一方で理由に気付いていたが、今は何も考えてたく無かった。







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