目前に待ち構えるのは、後の天下人を決めるであろう曾て無い程の大きな戦。
勝利を勝ち取る可能性は決して高い訳では無い。
だが、可能性が無い訳では決して無い。
亡くなった主の揺るがぬ地位を保たせる為に、奔走を続ける三成。
秀吉への恩義を持ちながらも、時期天下人として名高い徳川家康に付くと言い張る清正。
曾ての仲間が次々に分断し、溝は大きくなる一方、それらのを一歩引いた場所で眺める行長は。
「僕は西軍に付く」
「正気なのか」
「正気も何もあらへん。さきっちゃんは放って置けへんし、秀家様も秀吉様への恩義の為に西軍に付くと言っておられるしな」
あの我が侭坊っちゃんが立派な事を。と冗談混じりに笑うが、乾いた笑いしか溢れる事が無かった。
「お前は」
「何や」
「お前の意思は何処にあると云う」
「僕の意思?そんな大層なものあらへんわ」
「何」
吐き出された言葉は何処か投げ遣りで、清正の癪に触ったらしく、片眉を吊り上げ行長を睨み付ける。
だが、そんな事をされても行長はどこ吹く風の様に涼しい顔で清正を見据える。
「さきっちゃんが、秀吉様の為と躍起になるのも分かる。秀吉様傾倒のお虎が何で徳川に付く理由も分かる。でも僕は、其所まで大層な事は思えへん」
元々、商人の出として異質な存在でありながらも、目を掛けられ、大名にまでのしあげられた恩義はある。
喩えそこに明らかな利用価値があると計算されている事であったとしても。
「世界は動いとる。小さな波紋がどんどん拡がって行く様にな。波紋は止まらん、時と同じや。時の流れには逆らえへん」
それはきっと神様とて同じ事。
「ならば何故、時代の流れに逆らう」
「次は徳川が天下を握る、それは誰もが口にせずとも分かっとる事。けど僕も、さきっちゃんも、その時代では生きられへんよ」
「何故そう言い切れる」
「今の生き方を変えられへんから」
誰よりも不器用で誰よりも意固地な三成。
信じたものを貫き通す為に必死な姿が脳裏に浮かぶ。
そして己は。
「僕はな、『武士』でいる事が怖いんよ」
それまで他人の命を幾つも奪ってきた。
それを誇った事すらあると云うのに、海の向こう、異国の地にて行われた意味無き侵略。
それで得たものはひたすら耐える飢えと寒さ、そして絶望。
この手は罪の無い人々を殺して、何を得たと云うのか、もう分からない。
「だから死に急ぐと云うのか」
清正の怒りにも似た瞳が行長を突き刺す。
何もかもが正反対で、常に競うように対立して来た奴がこの腑抜けであったのかと呆れているのかもしれない。
それならそれで良いと行長は自嘲気味に笑う。
「なぁ、お虎。一つ頼み事をしたいんやけど」
「頼み事だと」
「宇土の皆を頼む」
それは勝手な願いだと知っている。
だが、それを託せるのはこの男しかいない事も知っている。
だから。
「最後位、人の頼み位聞いてや」
冗談混じりに言うように、笑う。
その言葉に対しての言葉は無かった。
けれどもきっと大丈夫だと確信していた。





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