冬の終わりが訪れ、大地には春の息吹が芽吹く季節に移り変わった。
日中は然程寒さも感じられず、心地良い事この上無い。
だが、やるべき事は山積みで、ゆっくりとはしていられないのが現実なのだが。
足早に廊下を歩き、同僚である三成の自室へと向かっている吉継。
特に許可を取る訳でも無く唐突に扉を開く。


「三成、この間の件で話がー……って、居ない?」


一応辺りを見渡すが、見付かる筈も無く。
対して急ぎの用事と云う訳では無いのだが、仕事を放りだして何処かに行く様な人間では無いと思っていたので、意表を突かれた気がした。
顎に手を当て、首を傾げる。


「はて、何処に行ったのやら」


自然と足が動き三成を探しにその場を後にする。



暫くして三成は見つかった。
日の辺りが良い縁側で、柱に背を預けながら小さな寝息を立ていた。
その横には、眠る寸前まで読んでいたのか開かれたままの本が置かれている。
どうやら転寝をしてしまった様だ。
その寝顔は、清正や正則達に見せる様な厭味たらしい顔では無く、何処かあどけない表情を浮かべていた。
思わずまじまじとその顔を覗き込んでしまう。
かなり近く来ていると言うのに、気配に気付かない三成。
余程疲れていたのだろうか。
試しに、頬をつっついてみるが、一瞬顔をしかめたと思いきや再び穏やかな表情に戻る。
その一部始終その様子を見つめていた吉継は、込み上げてくる笑い声を噛み殺す。



「…全く、いつも其れ位に愛嬌が在れば、もう少し敵も少なくなるだろうに」


そんな呟きを溢しながら、表情には優しい笑みを宿していた。
もう少しこのままにさせてやろうと、吉継は静かにその場を離れた。
この穏やかな時間がまだ暫く続く様に、そっと祈りを込めながら。





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