「手を伸ばせば届くような星空」


「あ!ブラージ!フィディオ見なかった?」

そう言って、オレは丁度合宿所の食堂で飲料を飲んでいたブラージに尋ねた。
ブラージは飲料を机の上に置き、首を傾ける。

「いや…見てねぇな…。どうかしたのか?」

不思議そうに聞くブラージにオレは少し唸ってみせる。

「いやぁ…借りてた本を読み終わったから返そうと思ってさ。さっきから捜してるんだけど、どこにも見当たらなくて…」

「また勝手に出かけたんじゃないか?」

言いかけのオレの言葉に次いで、丁度食堂に入って来たラファエレは口を挟んだ。
オレはラファエレの方に視線を移す。

「え?出かけたって?こんな時間に?」

オレは疑問をぶつける。
すると、ラファエレは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しながら返した。

「ほら、前にもあっただろ?確かFFIが始まってすぐの頃だったか?夜中に合宿所を抜け出して街に行ったことが。」

「あ…確かにあった…。でも、今回は違うと思うんだよな。玄関の鍵は閉まってるし。」

「そうなのか?だったら部屋に戻ってるんじゃないか?マルコと入れ違いになっているかもしれないぜ。」

オレの回答に別の返答を返し、ラファエレは椅子に腰を下ろす。

「うーん…そうかな…?まぁ、もしかすると戻ってるかもしれないし、もう一度部屋に行ってみるよ。グラッツェ、二人共!」

一度考え、それから二人へと礼を述べてオレは食堂を後にした。



「えっと…フィディオの部屋は二階の端から二番目だったよな…」

一人呟きながら階段を上る。
何かで集まる時は大抵食堂か、オレやアンジェロの部屋だから、この合宿所に来てからあまりフィディオの部屋に足を運ぶことはなかった。
何より、フィディオが自分の部屋の位置は遠いからと、他の皆の部屋に近いオレ達の部屋を集合場所に定めたというのも、フィディオの部屋に行く機会が少なかった原因だろう。

「痛っ」

階段を登り終え、廊下の角を曲がった時、オレは誰かにぶつかり思わず声を上げた。
持っていた本がばさりと床に落ちる。
考え事をしていたせいで、見事に避け損なってしまった。

「大丈夫か?」

上から声が降ってくる。
打ち付けた鼻を押さえながら視線を少し上方へと傾けるとそこには心配そうなジャンルカの顔が在った。

「あ、ごめん、ジャンルカ。」

「どうしたんだ?心ここに在らずって感じだったぞ?」

そう言いながら、ジャンルカはしゃがみ込んでオレの落とした本を拾い上げた。
差し出されたそれを受け取り、一つ礼を言う。
それから質問に答えた。

「ありがと。うん…フィディオがいなくなっちゃってさ、捜してたんだ。」

「フィディオ?フィディオなら部屋にいるんじゃないのか?」

オレの言葉に、ジャンルカはラファエレと同様の返答を返す。
その言葉に頷いて、オレはフィディオの部屋を示した。

「オレもそう思って、今から部屋に行こうと思ってたんだ。」

「そうなのか。…じゃあ、オレも一緒に行く。どうせやることもないしな。」

「グラッツェ!ジャンルカ!」

ジャンルカに返し、今度は二人でフィディオの部屋へと向かった。



「フィディオー!本返しに来たぞー!」

フィディオの部屋の前に到着するなり、オレは叫んだ。
しかし、中から返答はない。

「やっぱりいないのかな…」

オレが呟くと、すぐ横でジャンルカがドアノブに手を掛けた。
すると、ドアはきい、と音を立てて開いた。

「空いてるぞ?」

「ちょ…ジャンルカ!勝手に開けたらまずいって!」

「鍵を閉めておかないフィディオが悪い。おい、フィディオ!入るぞ!」

そして、ジャンルカはオレの制止を無視して室内へと足を進めた。
どうしたものかと悩んだが、オレもジャンルカの後へと続く。
ここで立ち尽くしていても、どうにもならない。

「ごめん、フィディオ!お邪魔しますっ!」



室内に入って印象的だったのは、部屋が真っ暗だったということ。
それに、何故か開け広げられた窓。
窓の外からは月明かりが差し込んでいて、室内にぼんやりとした不思議な雰囲気を醸し出している。
しかし、やはりその部屋にフィディオの姿はなかった。

「やっぱりいない…」

呟くオレの前で、ジャンルカは開けっ放しの窓から身を乗り出す。
確かに、誰もいないのに窓が全開というのも変な話だ。

「あれ?ジャンルカ?」

その時、どこからともなく声が響いた。
ジャンルカに呼びかけていることから、どうやらそれが外からであることが窺える。

「フィディオ!?お前、一体どこに…」

言いかけて、ジャンルカは言葉を切った。
ジャンルカの視線がゆっくりと頭上へと向けられる。

「上だよ、屋根の上!」

次の瞬間、フィディオから示された場所は、まさかの合宿所の屋根の上。
取り敢えず、この状況をどうしたものか。
特にこれといった考えも浮かばず、しかしそれでもこの状況に置いていかれるわけにはいかないと考えたオレは窓へと近寄った。
ジャンルカの横から身を乗り出し、上を見上げる。

「あ!マルコも一緒だったんだ!せっかくだし、二人も上がって来てよ!凄いんだ!」

「凄いって何がだよ?大体、どうやってそんなところまで行ったんだ?」

フィディオの誘いに、ジャンルカは尋ねる。
すると、フィディオは楽しそうに答えた。

「それは来てからのお楽しみさ!上にはそこの排水管を足場にすれば簡単に上れるから!」

フィディオの声に、ジャンルカは一つ溜息を吐いてから尋ねる。

「どうする?」

「うーん…フィディオがあそこまで言ってるんだから、きっと凄い何かがあるんだろうし…行ってみよう!」

その問いに返す。
そして、オレ達は窓枠にゆっくりと足を掛けた。

「気を付けろよ。」

「分かってる!」

そして、オレ達は屋根の上へと上った。





「うわぁ…」

オレはそれを見て、言葉もなくまず感嘆した。
屋根の上に上るなり、フィディオがオレ達に示したのは遥か頭上。
そこには、まるで真っ黒の紙に沢山の宝石を散りばめたかのような、一面の星空が広がっていた。
ジャンルカも、オレの隣でその星空に視線を奪われている。

「凄い…綺麗だ…」

オレがそう呟くと、フィディオは満足そうに笑みを浮かべた。

「そうだろ?この辺りは明かりが少ないから、他の場所よりも星が明るく見えるんだ。あ、立ちっぱなしじゃなんだから二人も座れば?そのままじゃさすがに危ないし。」

「そうだな。」

そう返し、ジャンルカは腰を下ろす。
オレも、少し屋根の中央に寄ってから腰を下ろした。

「それにしても、本当に綺麗だ…」

オレが再び呟くと、フィディオとジャンルカは無言でそれに頷いた。



『手を伸ばせば届くような星空』
(三人で見たその星々の煌めきは)
(まるでオレ達のすぐそばに在るかと思えるほどに)
(明るく夜空を彩っていた)



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You were on that summer.様に提供させて頂きました。
少々纏まりのない文章ではありますが、一応、今回はマルコ視点による進行となっております。
どうやら他の方の作品では海外組キャラをあまり扱っていないようなのですが、藤森は参加させて頂くと決めた時から、何故かこの三人で書く気満々でした…!
ですので、オルフェウス組で星関係の話を書くことが出来、とても満足しております。

初の企画参加ですので、至らない点も多いかとは思いますが、非常に楽しんで書かせて頂きました。
この度は参加させて頂き、有難う御座いました。


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