「sympathetic cold」
寒いの…?
じゃあ、これ、貸してあげる…
独り道端にしゃがみ込み、心の中で目の前の生物と会話する。
1月のある日、季節は勿論、冬。
オレは部活の帰り道で、子猫を見つけた。
首輪はしていないから、きっとノラだ。
小さな体は、この涼しい…
否、寒い空気に晒されて、震えていた。
オレは首に巻いていたマフラーをそっと外すと、一度形を整えて、子猫の体に優しく巻き付けた。
マフラーを外した瞬間、寒気からの防護を失った首元に、冷たい空気が触れてきた。
「…さむい…」
そう呟きながら、オレはマフラーにくるまれたことで若干なりと震えが治まったように見える子猫を見つめていた。
子猫は、なんだか嬉しそうだ。
「…藤丸?」
その時、相変わらずしゃがみ込んだままのオレの頭上から声が降ってきた。
そのままの体勢で顔だけ上へと向けると、そこには怪訝そうなチームメイトの顔があった。
「改…。何してるの…?」
「それはオレのセリフだ。」
オレが尋ねると、改は逆に尋ね返してきた。
「あ…そうか…」
改の言葉に思わず納得する。
確かに、こんな所にしゃがみ込んでいるオレの方が、“何やってる”だ。
「猫が寒そうだったから…」
オレは言う。
すると、改は呆れたような顔で返した。
「それで自分の防寒具をやったと?」
「ううん、あげてない。貸しただけ。」
「いや…そういう意味じゃない…」
「え?そうなの?」
オレの反応に、改は一つ溜め息を吐いた。
「そんなことしてたらお前が風邪ひくぞ?」
改は呆れ顔で言う。
「大丈夫。神がそう言ってる。」
オレがそう言うと、改は更に深い溜め息を吐いた。
「お前な…神サマだかなんだか知らないけど、そんな格好してたら普通に風邪ひくからな。…ったく…」
改はそう言いながら、自分のマフラーをとり、オレの首に掛けた。
「………?」
オレが不思議そうな視線を向けると、改は言った。
「貸してやるから、取り敢えず巻いとけ。」
「え…?だけど、それじゃあ、改が寒くない?」
「寒いけど、別に大したことじゃねぇよ。オレの家はそんなに遠くねぇし。第一、オレよりお前の方が身体弱いだろ。」
「ありがとう。」
素直に礼を言いながら、オレはマフラーを首に巻く。
暖かい。
すると、改は突き放すように言った。
「べ…別にっ!ただ、お前が体調崩したらキャプテンとか迫が無駄に心配するからだ…っ!」
「そうだね。」
こういう時、改は素直に感謝の気持ちを受け入れられない。
だから、オレはそれだけ返した。
相変わらず、改は不器用だ。
「じゃあ、オレは行くからな。」
「ありがとう。これ、明日返すね。」
そう言うと、オレに背を向けた状態で軽く手を上げ、改は足早に去っていった。
冷たい冬の風は、暖かいマフラーの温もりによって包まれた。
『sympathetic cold』
(冷たい冬が生んだ)
(思いやりの暖かさ)
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眞羅様より相互リクエストを頂き、書かせて頂きました。
「御影で何か」とのことでしたので、啓と改で冬の話です。
冬の冷たさと、啓から子猫、改から啓への心遣いや思いやりの暖かさを対比出来れば、と思い書きました。
それを感じとって頂ければ幸いです。
何分、御影キャラは掴みきれていないところが多く、他サイト様とは大幅にキャラ立ちが違うかもしれませんが、これが私の中にある彼らです。
このようなものでよろしければ、お持ち帰り下さい。
この度は相互有難う御座いました。
これからもよろしくお願い致します。
《sympathetic=[形]思いやりのある》