「星屑に誓う」
「なぁ、風丸…」
唐突に円堂は口を開く。
「なんだ?どうかしたか?」
風丸は静かに返し、そっと視線を円堂へと向ける。
頭上には無数の星、眼下には街の光が点々と煌めいている。
鉄塔の手すりに身を委ね、円堂は軽く夜空を仰いだ。
「オレ、さ…ずっと考えてたんだ…」
「………」
話し始める円堂に、視線で続けるよう、促す。
「オレ達、もうすぐ中学生になるだろ?そうしたら、一体どうなるのかな…って…」
円堂の言わんとしていることが理解出来ず、風丸は首を傾げる。
「どうなるのかって…?」
すると、円堂は困ったように続けた。
「あ…いや…上手く表現出来ないんだけど…」
そこで一度切る。
そして右手を空へと翳す。
「中学生になったら、色々と変わるんじゃないかな…なんて思ってさ…。今在るモノが変わっちゃう気がして、なんだか不安なんだよ…」
「円堂…」
「勉強も難しくなるし、部活も始まるし…まぁ、部活は楽しみだけどさ…。でもその分、今まで出来てたことが出来なくなっちまうんじゃないかな…」
どこか切なげな円堂の表情に、風丸は軽く目を伏せる。
「なぁ、円堂…」
「ん…?」
風丸が円堂の名を呼ぶと、円堂は視線を風丸へと移した。
刹那、風丸は円堂の背中を平手で叩く。
「わ…っ」
突然の衝撃に、円堂は声を上げた。
「…って〜!と…突然何するんだよ!?落ちそうになったじゃないかっ」
「ははは…。すまん、円堂。」
薄く笑う風丸に、円堂は頬を膨らませ、抗議する。
「わ…悪かったって…!だけどな、円堂…」
一度笑った後で、風丸は表情を引き締めた。
「そんな風に悩むなんてお前らしくないんじゃないか…?」
「オレ…らしくない…?」
「あぁ。お前は何時だって、思った通りに突っ走ってきたじゃないか。周りからどんなに批判されても、突き放されても、それでも信じた道を走り続けてきた…。そんなお前自身に、自信を持っていれば良いんだよ。居場所が変わっても、周りが変わっても、お前は変わらずに在り続ければ良い…。そうすれば、きっとお前の気持ちに影響されて“変わる”奴が現れるよ。昔のオレみたいにな…」
「風丸…」
「だからさ、良いんだよ。無理に変わろうとしなくて。お前は変わる必要なんかない、だろ?」
風丸はそう言い微笑んだ。
つられて円堂も薄く笑む。
「そうだな…。こんな風に悩むなんてオレらしくないな!よし!オレは信じたことをとことんやってやる!それがオレだ!」
円堂は拳を突き上げ、叫んだ。
隣では風丸が相変わらず笑みを浮かべている。
「それにな…」
未だに叫び続ける円堂に、風丸は静かに言った。
「変わらないものだって、きちんと在るんだぜ…」
「………?」
円堂は首を傾げ、風丸を見る。
「たとえどんなに周りが変わっても、オレ達はずっと友達だ。それは変わらない…だろ?」
その言葉に、円堂は一瞬呆気にとられたような表情を浮かべた。
しかし、それはすぐに笑顔へと変わる。
「あぁ…!そうだな!ありがとう、風丸!お前のお陰でなんか元気が出てきたぜ!」
「そうか。それなら良かった。」
返す風丸に、円堂は手を差し出す。
何事かと円堂を見ると、満面の笑顔で言った。
「これからもよろしくな、風丸!」
突然の行動に今度は風丸が呆気にとられたが、ゆっくりとした動作で差し出された手を握った。
「あぁ…!」
頭上には無数の星、眼下には街の光が点々と煌めいている。
二人は星屑が瞬く中、しばらくの間、笑い合っていた。
『星屑に誓う』
(もしも世界が変わっても)
(この絆は変わらず此処に在り続ける)
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円堂と風丸。
小学校から中学校へと進学する少し前くらいの話。
過渡期とは誰しもが不安を抱く時期で、さすがの円堂にとってもそれは例外ではなく、やはり変わるということに少なからず恐怖しています。
そんな彼を支える、幼馴染で親友の風丸。
彼は円堂の影響で“変わった”人物の一人です。