「Whereabouts in star which it looked for」
「負けた…」
愕然と膝をつく。
頭の中が真っ白になって、何も考えることが出来なかった。
ただ覚えているのは、そっと肩に置かれた優しい手。
見上げた先には、負けたというのにどこか穏やかな笑みを浮かべているキャプテンの姿があった。
負けたのに、何故そんな顔が出来る。
フィフスセクターの命令を実行出来なかったというのに、何故そんな顔が出来る。
その表情の意味が、その時のオレには理解出来なかった。
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あー…さすがにまずった…
眩暈が激しい。
控室の簡素なベンチに横になり、オレは目頭を手で覆った。
試合後、オレはチームメイトよりも先にグラウンドを後にした。
きっと今頃、他の奴らはミーティング中だろう。
オレは元々シードだから、その場に必ずしも同席する必要は無い。
ましてや指示に反する負け試合だ。
そこにオレが居ても、何も起こるわけではなかった。
くそ…頭が回らない…
いくら勝敗指示を守る為に必死だったとはいえ、さすがに化身を出し過ぎた。
化身は使用者の精神を具現化したようなものだ。
つまり、使えば使う程、使用者の精神はすり減り、消耗していく。
これでしばらくは化身、使えねーかな…
いや…
反乱を起こしたのは雷門だったとはいえ、結果としてオレは達成すべき勝敗指示に背いたことになる。
化身を使うどころか、サッカーさえ、出来なくなるかもしれない。
そうなったら、オレはもう天河原中には居られなくなる。
また、居場所を喪う…
そう考えると、無性に空しい気持ちに苛まれた。
居場所、か…
そういえば、天河原中に来てからもう1年以上が経つのかと、改めて実感する。
こんなに一所に居座ることになるとは。
そのことに一番驚いているのは紛れもなくオレ自身だった。
初めはぶつかり合っていた喜多達とも、共に部活をしていくうちに打ち解けることが出来たように思う。
確かにオレはシードで、フィフスセクターの監視者だったけれど、それでもあいつらはオレのことを【シード】ではなく【1プレーヤー】として認めてくれた。
立場上、何も言うことは出来なかったけれど、オレにはそれが本当に嬉しかった。
いつも、どこへ行ってもついて回る畏怖の感情。
フィフスセクターに入る前も、入ってからも、オレに対するそれは変わらなかった。
それでも、あいつらに出会えたからオレは救われた。
オレが壊れずにいられたのは、きっとあいつらがオレの事を認めてくれたからだ。
オレは…
天河原から離れないといけないのかな…
秩序を乱した。
それは、ここにいる理由を喪うということだ。
きっとオレはフィフスセクターに送還され、罰を受けることになる。
「まだ離れたくないな…」
いつしか、そんな感情さえも抱くようになっていた。
確かに、監視がオレの役割で、その為にここに派遣されたのは違いない。
フィフスセクターの為に、勝敗指示の通りに試合を展開すること。
させること。
それがオレの目的。
でも、いつの間にか、オレが護りたかったものは変わっていったのかもしれない。
オレは、勝敗指示を完遂することで天河原の奴らを護りたかったのかもしれない。
こんなこと、他のシードに言ったら鼻で笑われて馬鹿にされるのは目に見えている。
だけど、オレにとってそれだけ天河原中は大切なものになっていた。
「オレは…ここに居たい…」
目頭が熱くなる。
考えれば考える程、心の中に溜まっていた感情が溢れだしてくる。
オレはいつからこんなに弱くなったのだろう。
こんな小さなことで、心が揺らいでしまうだなんて。
「やっぱ、オレはそんなに強くないな…」
「そうかもな」
独り事に返答が返り、オレははっとした。
勢いよく身体を起こし、呆気にとられた表情で相手を見つめた。
「喜多…それにお前らも…」
見られていたことに気が付き、急速に恥ずかしくなる。
「何で…ミーティングにいっていたんじゃないのか?」
「もう終わったよぉ。それで、ボクらで隼総を迎えに来たところ」
西野空がいつものようにふざけた口調で言う。
こいつら、一体いつから居たんだ…
突然の出来事に混乱する頭を整理していると、今度は喜多が口を開いた。
「居れば良いじゃないか。お前は天河原中の一員なんだ」
「だけどな…オレは…」
監視という名目で、お前達のサッカーを壊してしまった。
そんなオレがここに居るのは、きっと場違いだ…
「隼総はさ…難しく考えすぎなんだ。良いじゃないか。ここに居たいからここに居る。オレ達も、隼総と一緒に居たいから一緒に居る。仲間だから。一人で考え込まないでもっとオレ達を頼ってくれ。その方が、オレ達も嬉しい」
喜多はそう言って穏やかに笑んだ。
まただ、と思った。
喜多は本当によく笑う。
つらい時でも、それを押し殺して。
きっとそれは周りを安心させたいとか、キャプテンとして自分は揺らいではいけないとか。
仲間を励ましたいとか、支えたいとか…
そういう純粋な感情から来るものだろう。
それだけに、その笑顔を見る度オレは苦しくなった。
「なんでお前は…オレにそんな風に笑いかけられるんだ…!?オレがいなければ、天河原中はもっと自由にサッカーが出来たかもしれない!オレさえいなければ…っ」
あまりに苦しくて、思わず叫ぶ。
しかし、喜多は子供をあやすかのようにそっとオレの頭に手を置き、目線を合わせた。
「な…に…を…」
呆気に取られ、オレは途切れ途切れに言葉を絞り出す。
すると、喜多は口を開いた。
「なんでって、隼総も仲間だろ?オレ達は、確かにフィフスセクターに管理されているし、隼総はその為に派遣されてきたシードだ。でも、オレ達は隼総の事をシードだなんて思っていない。隼総は誰よりも一生懸命サッカーに向き合ってる。本気でサッカーをやっている。隼総は、大切な仲間で、立派な1プレーヤーだ。だから…」
喜多の瞳が揺らいだ。
「そんな哀しいことは言わないでくれ…」
そんな喜多の姿に、オレは目線を喜多からそらした。
こんなにも、自分を大切に思ってくれている人がいる。
認めてくれている人達がいる。
馬鹿な奴だ…
馬鹿な奴らだ…
目の前には、優しい笑みを湛える天河原中の仲間達。
かけがえのない、唯一無二の友の姿。
それが嬉しくて、暖かくて。
「まったく…お前らは馬鹿だな…本物の馬鹿だ…」
オレはゆっくりと視線を上げると、いつもと変わらない、それでいてどこか穏やかな口調で呟いた。
『Whereabouts in star which it looked for』
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天河原に対して監視対象以上の感情を抱いてしまい、自分の立場との狭間で思い悩む隼総を、チームメイトが救う的なお話。
あの様子を見る限り、隼総は天河原中にきちんと溶け込んでいるように見えるし、だったら隼総の中でも天河原は特別な存在なのではないかと。
しかし、実際は監視の為に派遣されている身であり、皆から自由なサッカーを奪い、壊してしまっている加害者的な立場であるから、その感情は本来抱いてはいけないものだと苦しくなってしまい。
それでもチームメイトは自分を受け入れてくれる。
それが嬉しくて、それでも素直にその感情を表現することが出来なくて。
当サイトの隼総は天河原中のチームメイトが大好きな、でも不器用でそれを表現出来ない、そんな子です。
それにしても…
頭の中ではイメージがあるのに、どうしてもキャラと口調が定まらない今日この頃です…(苦笑)
【Whereabouts in star which it looked for:探していた星の行方】