(12/12)



年が明け、あっという間に冬を終えた3月。
前日から今日までは受験と言うこともあって昨日は全日禁止。
今日は午前中の部活は禁止されていたので、朝は各々走らせていた部員たちは午後から集まりはじめていた。

そんな中、若菜だけは集合よりも少し先に学校に来ていた。

もちろん部活の準備があると言うのも嘘じゃないのだが、今回早めに登校してきた理由はそれではない。
若菜には、受験結果が気がかりな後輩が1人いるのだ。
今日はその後輩にお疲れ様を伝えるのと、あとはできを聞くためにこうして早めに登校して、受験生が出てくる入口でそわそわと待ち伏せしているのだ。

出てくる受験生たちはどこか疲れたような顔をしている。
あそこの問題はどうだったのこうだったのと、時間が足りなかっただとの友達同士であちこちで話し合っている中、一人だけ背負ったリュックのショルダーベルトを両手で握りしめて、少しうつむき加減で歩く男の子の姿があった。

「坂道くん!」

その子に向かって声を上げると怯えたようにびくりと震えた後、きょろきょろとあたりを見回して声の主を探していた。
分かりやすいように大きく手を振ると、ぱっと笑顔になってこちらへ向かってくる彼を見て、ちょっと胸がきゅんとした。

「ここここんにちは!」
「こんにちは。そしてお疲れ様。どうだった?」
「あ、教えてもらったとことが出てきてできました!」
「でき良かったみたいだねぇ。この分じゃ受かるかなー」
「い、いえいえそんな!ボクなんかじゃ全然・・・!」

いつぞや、道端で偶然出会った少年、小野田坂道はこの年、若菜の通う総北高校の受験生だった。

あの日以来、特別に約束や待ち合わせをしたわけではないが、お互い合えば世間話をしたり、小野田にオススメのアニメを聞いたり。
そんな中で小野田が中学三年生で(もっと年下だと思っていた)今年総北を受けること知って、時間があるときに少しだけだが、勉強を教えたりしていたのだ。

「気を付けて帰るんだよ?今日は自転車で来たの?」
「いえ、道がよく分らなかったのでバスで来ました」
「そしたら、次のバスが・・・もうすぐだから、今からちょっと急ぎ目にバス停向かったらちょうどいいよ」
「若菜さんはこれから部活ですか?」
「うんそう。だから見送りできないんだけど・・・」
「大丈夫です!すぐそこですから!ありがとうございます」
「合格したら教えてね。じゃぁまた」

ペコペコと何度も頭を下げながらバス停へと向かう小野田に手を振って、若菜も部室へと向かった。

「1年島谷入りまーす」

中に入れば、すでに何人かは集まっていた。
その中には裕介の姿もある。

「後輩には会えたのか?」
「うん。あの様子じゃ大丈夫だったみたい」
「若菜のお墨付きなら間違いないっショ」
「なんだ、お前、そんなに可愛がってる後輩いたのかよ?意外だな」
「なんでですか」
「お前、他人に興味なさそうっつーか・・・あでも部内ではそうでもないな?」
「他人に興味がないわけじゃなくて・・・当たり前だけど興味ないことにとことん興味がないだけですー」
「こいつ、パーソナルスペースが絶対的すぎて周りが遠巻きにするっショ」
「裕介が言うか?激しいブーメラン飛ばすね」

あきれ顔でそう言えば、ちょっとだけ悲しそうな顔をされた。解せない。

「同じ学校の子ではないんですけど、縁があって仲よくしてる子なんです。いやまたこれが可愛くって。いまどき珍しい超純正培養育ちな純朴少年で、懐いてくれる姿が、こう・・・ちっさい柴犬みたいでぐしゃぐしゃに撫でてあげたくなると言うか、何事も一所懸命で応援してあげたくなる子なんです。癒しです癒し。うちの部かわいげないしおっとこ臭いから」
「さらっと毒吐くなっショ」
「そいつ、自転車はどうなんだよ?」
「運動部タイプじゃないですねぇ」

少し想像してみて・・・無理だった。
小野田がロードレーサーに乗って、ライバルたちと競っている姿は想像できなかった。








「できなかったのに、なぁ・・・」

あの時の会話を思い出しながら、若菜は呆然と、裏門坂をロードレーサーに乗った男の子とママチャリに乗った小野田の勝負を、坂のてっぺんから眺めていた。

「そっかぁ・・・そう言えばいつも表紙に載ってた眼鏡の主人公の男の子は、坂道くんだったかぁ・・・」
「なぁにさっきからブツブツ言ってるっショ」

ここからすべての物語が始まると言うことは、知る由もなかった。


* #
←←
bkm



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -