(9/12)



若菜たちが入部して約4か月たった夏、インターハイが行われた。

今年のインターハイ、総北は呪われてたんじゃないかと、若菜はまるで他人事のような感想を抱いた。

一年でも有望視された一人は転倒。
そして部内でも最有望視されていた一人は、他校の生徒による妨害行為により同じく転倒。
二人とも軽視はできない怪我を負ってしまい、現在治療中である。

「自転車が続けられるのは不幸中の幸いでしたね」
「そうだな」

今日は部員の健康管理もマネージャーとしての務めの一つだと言うことで、病院へ行く二人に付き添っている若菜。
公孝の方は、まだとてもじゃないが部活に出れるような体でも、そして精神状態でもないので自宅療養と言うことでここしばらくは部活にはあまり顔を出していない。
金城の方はと言えば、怪我があるとはいえ、新キャプテンとなった身。
全力での参加はできないが、本人の希望もあり様子を見つつの参加をしている。

「1年時間はあるんです。無理せずきちんと調整して、来年はとりましょうね、優勝」
「・・・何と言うか、若菜は前向きだな」
「物事を悪くとらえてもロクなことになりませんからね。裕介に言わせれば「計画性がない上に根拠もない」だそうですけど」

不貞腐れる若菜に金城は笑う。

そんな憎まれ口をたたく裕介含め、金城は知っている。
計画性?根拠?結構ではないか。
例え若菜の発言が計画性も、根拠もないのだとしても、若菜はそれまでの努力を出し惜しみしない。

「頼りにしてるぞ、敏腕マネージャー」
「真護さんにおだてられたら調子に乗りそう!」

ロードに乗れない若菜に合わせて金城と二人で長い坂を上っていく。
軽口をたたきながらちらりと金城を見上げる若菜。

(ん、真護さんはやっぱり大丈夫そう)

悔しいわけない。
けれどそれを相手校の選手を憎むわけではなく、すでに前を見据えている様子だ。
これならなにも心配することはない。

それに、改めて確信を持ったのはその後の出来事だった。


部室につくと何やら騒がしい。
どうやら裕介たちはまだ部室にいるようだ。金城が来るのを待っていたのだろうかと若菜が首をかしげながら入口をくぐると、慌てた様子でこちら―――の後ろを凝視している裕介と田所。
何があるのかと後ろを振り返って、若菜もしばし驚きで言葉が出てこなかった。

「ハコガクの、福富さん」

金城が怪我を負った直接の原因で、今年のインターハイを制覇した箱根学園の新キャプテン。
実際に相対するのはこれが初めてだ。

裕介と田所の二人はとにかく二人の対面を阻止したいらしく慌てふためいている。
あの手この手で金城の注意を反らそうとしているのだが動揺しすぎて何をしたいのか分らない。

「って、迅さんちょっと待って!ホイールは駄目!」

―――修理にお金かかるからー!!!

その切実なる若菜の叫びの為か、崩れ落ちたホイールに巻き込まれ寿一が怪我をした為か、そのタイミングで騒ぎは収まった。



********************



あの後、手土産を持って謝罪に来たと言う寿一を連れて、金城はロードを走らせに行ってしまった。
とりあえず金城が戻るまで部室に居ようとのことで皆で、思い思い、若菜は部室掃除をしていた。
田所は1年組に頼まれて指導練習へ、

「真護さんて、ホントに高3なのかね・・・」

若菜のつぶやきに裕介は鼻で笑った。

「おまえが言うなっショ」
「ぴっちぴちの高校1年生ですー」
「語彙がいまいちダサい」
「裕介が見てるそのグラビアのアオリも変わんないでしょ」

嘆息しながら裕介の手にあるグラビアを盗み見る。
いつの頃からか当たり前に常備しているそれに、年頃なのかと微笑ましいと言うか、苦々しいと言うか。

「男ってなんで巨乳好き多いのかな?女の胸に夢抱きすぎ。詰まってんのは脂肪と、残るのは肩こりだけだってのに」
「持たない人間が語るなっつーの」
「持たなくないですー。こう見えても人並み以上は実は持ってたりしますー」
「いや、どう見ても持たないだろ」

呆れたように長い指でまっすぐ指さすのは若菜の胸。

「・・・裕介さぁ、マネキンって貧乳だと思う?」
「マネキン?・・・あぁ、ちょっと小さ目くらい?」
「あれ、C〜Dくらいって知ってた?」
「は?嘘つくなっショ」
「嘘じゃないし。ちなみに私がそれ以上なのも嘘じゃない」
「・・・・・・え?マジで?」
「マジで。裕介は巨乳ってより、グラビアに夢見てたのかな?そんなの寄せてあげてCG補正したに決まってんじゃん」
「いや、つーかそんなことより、お前の告白のがビビったっショ」
「詳細に関しては黙秘します。そんなことより何の話だったっけ?・・・あぁ、真護さんだよ、真護さん。大丈夫かなぁ?」
「若菜サーン?そりゃないっショ」
「福富さんって見た感じ悪そうな人じゃなさそうだったし、極限までの緊張に追い込まれちゃってつい手が出ちゃったんだろうね。だから真護さんも憎まないのか・・・いやぁ、やっぱすごいなぁ・・・あ、そう言えばことの顛末尽八くんに連絡したげたら?」
「ムシか。つーか、イヤだ」
「じゃぁ私がLINEで送っとくよ」
「いつの間にLINE交換したんだよ・・・」
「インハイの時。裕介が電話に出ないからなんかあった時のために教えてって」

とりあえず「無事なのでご安心をば」と送れば、すぐさま返事が返ってきた。LINE通話で。

「さっすが東堂様・・・もしもしー」
『若菜ちゃんか!無事とはどういうことだ!フクは無事なのか!?』
「大丈夫。福富さんお土産持って謝ってくれたよ。うちの金城と今一緒にロード走らせてる。福富さんが皆の前では話しにくそうだったからか、二人で何か話してるんじゃないかなぁ?」
『フクの気持ちを慮ってくれてありがとう。あいつは口下手だからきっと言わんだろうが、心から感謝してると思う』
「うん。皆、福富さんが100%悪意だったなんて思ってないから。こうして頭下げに来てくれたのを受け取らない人じゃないよ、うちの皆は」
『そうか・・・巻ちゃんもそこにいるのか?』
「いるよ?変わる?」
『どうせつまらん顔を見ておるのだろう?』
「よく分ったねぇ」
『かまわんよ、どうせまた近くに連絡するからな。ではまた』
「はーい、あ?」

電話を切ると同時に、裕介にスマホを取り上げられてしまった。
何をするのかと、むっと見上げれば若菜以上に不機嫌な顔がそこに。

「尽八の野郎・・・ブロック」
「え!?ちょ、何すんの!」
「ブロックしとかないと調子に乗って毎日連絡してくるっショ」
「裕介じゃないんだし、尽八くんも私にはさすがにそんなに連絡してこないでしょ」
「大体それェ!いつの間に尽八くんなんて呼んでるっショ」
「裕介のいい人なら仲よくしたいって言ったら気軽に呼んでくれ敬語もいらんぞはっはっは!って快諾してくれた」
「言葉!誤解を受けるからやめろ!」
「尽八くんていい子だよねぇ。顔がいいからとかじゃなくて、モテるよあれは」
「何の話だっつーの・・・おまえと話てっと暖簾を力いっぱい押してるみたいで疲れるっショ・・・」
「拗ねないで拗ねないで」

どうやら分かりやすく尽八とのことで妬いているらしい裕介が可笑しくて思わず笑った若菜に、裕介はさらに不機嫌な顔をする。

「なーんで私と尽八くんがどうこうなると思うかな?」
「別に、どうこうなるって思ってるわけじゃないけど・・・若菜も・・・尽八も、イイヤツだし、そうなっても、おかしくないっつーか・・・尽八もやけに楽しそう・・・あー!クソ!ヘンなこと言わせんじゃねぇっショ!」
「尽八くんが楽しそうに見えるのは裕介の話をできるからだと思うけど」
「それはそれで微妙っショ!」
「ま、確かに。あ、もし裕介が尽八くんとどうこうなりそうだったら事前に教えてね」
「なるわけあるか!尽八とどうこうなる前にオレはお前とどうこうなりたいっショ!」
「・・・ムードのへったくれもない。却下」
「またかよ!おまえいつになったら素直に受け取るんだよ!」

実は実は、裕介が(広義で)告白するのは何も初めてのことではない。
数年前の痴漢事件(くどいようだが若菜の偏見)を皮切りにちょくちょくと、時にストレートに、時にさりげなく。
それをのらくらとかわしているような、そうでもないようなあいまいなところなのである。

恋人としての段階には片方足をかけている二人。。
ただ、じゃぁ恋人同士です!と断言できるかと言えばそうでもないような。

これに関しては若菜にも言い分があって、最初の痴(ryのときにはっきり答えられる告白をしてくれればよかったものを、よく分らない曖昧なことを言い出した裕介の方が悪いのだと思っている。
裕介も、若菜が断らないのを知っているくせに明確な答えを返すまでゼロかイチでいえばの「イチ」にならないらしく、お互い様な二人の様相は曖昧さだけが増えていくばかりであった。

「うーん・・・インハイ優勝したら?」
「1年後!?鬼!若菜の鬼!おまえ、オレのこと嫌いっショ!?」


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