[前回までのあらすじ]
それぞれの目的を胸に海を行く海賊団イースト。
途中立ち寄った街で、海賊団ホムンクルスに遭遇する。エンヴィーと対峙したエドワードとロイ。
その時にロイの負った怪我をエドワードは大エリクシルで治す。
少し距離が縮まる二人。
その夜、エドワードはエリクシルを預かってくれ、とロイに託した。




『あのさ、これ預かってくんない?』
エドワードが差し出したのは大エリクシル。
『万が一の時、船長が持ってたほうが安全だから』
『エドワード?』
『多分大丈夫だから! 備えあればってやつだよ!』
ロイの手にエリクシルを乗せてエドワードは自室へ戻っていった。


−−−−−
「あっついいい!」
船縁に顎を乗せてエドワードは呻いた。
「船室にいたら蒸し焼きになるかと思ったぜ」
それを隣で聞いていたハボックはからからと笑った。
「船室は風通し悪いからな」
「誰だ造ったやつはー」
「船長」
「よし殺す」
船縁をバンッと叩いてエドワードは立ち上がった。右手は固く拳にして。
ハボックはニヤニヤとそれを眺めている。
「二人で何をしているんだ?」
そこへ渦中の人物がやってきた。
「船室の暑さの恨み!」
言うなり、エドワードはロイの腹を殴りにかかった。
「ぐふっ」
もろ喰らったロイは膝をついた。
後ろではハボックが爆笑している。
ロイはハボックを焼こうと心に決めた。
のろのろと顔を上げるとエドワードが見下ろしていた。
「何をするんだね……」
「うるせー船室の恨みだ」
ロイは腹をさすりながら立ち上がった。
「そんなに暑いなら、私の部屋に来るかい?」
「船長それはずるいっスよ」
「うるさい」
ロイの部屋は風通しがよく、広い。
ハボックが文句を言うが一蹴される。
どうなんだい、と聞くとハボックからヤジが飛んだ。
「止めとけ大将、喰われちまうぞー」
それに顔を赤らめたエドワードは「誰がいくか!」と叫んだ。
三人が漫才をしていたころ、海上には異変が起きていた。
見張り台にいたファルマンがいち早くそれを見つけ、叫んだ。
「船長! 正面、海軍の船です!」
それを聞いたロイは舳先に駆け寄った。
海軍の姿を確認したロイは船員に告げた。
「全員、戦闘の用意をしろ!」



砲台に弾を詰めたり、各々が武器を手に取ったころ。
海軍の船がイーストの船に接近した。
「海軍が何の用だ!」
ロイが舳先で叫ぶ。
「海賊団イースト、海軍はお前たちが拉致したエドワード・エルリックの保護をしにきた」
これに驚いたのはエドワードたちリゼンブール組である。
彼らは自らイーストに入ったわけであって、拉致のらの字もない。
それはホーエンハイムも知っていることであり、海軍に要請など有り得ないのだ。
「兄さん、どうするの」
アルフォンスがエドワードに尋ねた。
エドワードは怪訝な顔で海軍の船を見た。
「行かないって言うしかねえだろ」
「そうだね」
エドワードとアルフォンスはロイの隣に立って叫んだ。後ろにはハイデリヒを含む仲間が見守っている。
「悪いけど俺ら帰る気ないからー!」
「そういう訳だ、帰ってもらおう」
エドワードの後をロイが引き継ぐ。
しかし、海軍が大人しく引き下がるはずもなく
「ならば海賊の討伐をさせてもらう!」
と返ってきた。
ロイは即座に戦闘体勢に入るよう指示をする。
大砲が音を立て、海で飛沫が上がる。
海軍の船は接近しイーストの隣につける。
「船に上げるな!」
ロイは発火布をすり合わせながら指示を出す。
焔が飛んで海軍の者を吹き飛ばす。
『出来るだけ殺さない』がモットーのイーストには辛い戦いとなる。
あくまで出来るだけ、なのだが。
「アルっ!」
「任せて兄さん!」
「こっちは大丈夫ですよエドワードさん!」
兄弟は錬金術を駆使し、ハイデリヒは細身の剣を振り回している。
「行きなさい鎧兵!」
海軍指揮官、エッカルトがそう言うと鎧たちが動き出す。
「船長何か大量の鎧が来ましたよ!」
海軍の船からごつい鎧が大量に向かってきていた。いち早く見つけたブレダがロイに伝える。
「船長! あれは銃では無理です!」
ホークアイが銃で敵を打ちながら言う。
ロイもまた焔を飛ばしながら言った。
「接近戦になる、全員気をつけろ!」
驚いたことに鎧の中には誰もいないのだ。
錬金術のようで違う、謎の模様が刻まれている。
「これは……?」
ロイが構築式などを考えようとした時、後ろでうわあああというエドワードの叫び声がした。
咄嗟に振り返ると鎧に抱え上げられたエドワードが見えた。
そのまま鎧は海軍の船へ戻っていこうとする。
他の仲間は鎧に手一杯で動けない。
「離せ降ろせ!」
エドワードは必死で抵抗するがびくともしない。
ロイは目の前の鎧を焔で吹き飛ばすと走った。
「エドワード!」
ロイに気づいたエドワードが腕を伸ばす。
「船長!」
ロイの伸ばした腕はエドワードに触れることなく、別の鎧に阻まれた。
海軍の船にエドワードを乗せたとたん、鎧は撤退していった。
余りにもあっという間のことであり、全員呆然と立ちすくむしかなかった。
ロイはダンッと船縁を殴りつけた。
「エドワード……!」
海はまた静かな時を歩み始めていた。



-----
長くなるので一回切りました。
このあとアルがめちゃくちゃしゃべります



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -