「人は人を殺せるんだ」
俺を執務室の床に押し倒して大佐は言った。
固い、リノリウムの床。背中がひやりとする。
「銃で、ナイフで、紐で、この万年筆でさえ……いや道具など必要ない。この手で、君を。殺すことが、できる」
大佐の両手が俺の喉に食い込む。一瞬息が詰まった。それでも力はほとんど入っていない。元より殺す気など存在していない。
「君は、私が君を殺したら恨むかね」
「さあね」
そんなものやってみなければわからないものだ。
黒耀石のような瞳が少し揺らぐ。
ああ、これだから。
「あんたは後悔してんだろ。ならそれでいいじゃねえか」
首に絡み付く手を払う。
身を起こしてそっと囁けば、大佐の身体がぴくりと震えた。
普段からこのくらい大人しければいいのに。
「殺せるものなら殺してみろよ。簡単には死んでやらないからな」
挑発的な笑みを浮かべて、宣言。これは悪魔の囁きのようなもの。
大佐はゆるゆると口角を上げた。そして、まったく、と。
「まったく、君には敵わない」
こう言った顔があまりに端麗であったので、問答無用で首に噛み付いてやった。
少しだけ、大佐になら殺されていい、と考えてしまったことは頭から払った。



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情緒不安定な大佐が書きたかった。

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