始まりはハボックの持ってきた話だった。
「相手の気持ちがわかる陣?」
エドワードは手渡された紙に目を落とした。
ハボックが面白いもんがあると持ってきたものだ。
「それ触った人と所有者がお互いの気持ちがわかるんだと」
タバコ片手に力説してくる。大方、彼女にでも使うつもりなんだろう、と予想できた。
「で、なんで俺に渡すの」
「そりゃあ大将、いろいろ聞きたいだろ?」
「誰に?」
怪訝そうな顔で聞くと、ハボックはニヤッと笑った。
「大佐」
「はあっ!?」
エドワードは座っていた椅子から勢いよく立ち上がって叫んだ。
その拍子に資料の山が少し崩れた。
「あっ、悪い」
二人でバタバタと拾い集める。
その時、エドワードはハボックの背後に立つ人物を見た。サッと血の気が引く。
「……何をしているのかしら?」
「ちゅ、中尉」
ハボックはギギギ、と油の切れたおもちゃの用に首を回す。そこには冷ややかな目でハボックを見下ろす、ホークアイがいた。
「ご、めんなさい、俺が資料、落としちゃって」
「あら、エドワード君は謝らなくていいのよ。ハボック少尉が悪いのだから」
そう言って二人に向かって微笑んだ。
背筋が凍ったのは言うまでもない。
ホークアイは先程までエドワードが持っていた紙を拾い上げる。
「これは没収ね」
「「はいっ!」」
何故か正座して二人は叫んだ。
この日、紙は返されることなく、エドワードは宿に、ホークアイは自宅へと帰った。



そして翌朝。
「たたたたたた大佐ー!!」
バターン!と音を立ててロイの執務室のドアが開かれた。開けたのは何やら慌てたアルフォンス。片腕にはエドワードを抱えている。
「どうしたんだ、アルフォンス」
様子の違うアルフォンスに気圧されながらも、ロイは尋ねる。
すると予想しない答えがきた。
「兄さんが中尉なんです!」
「はあ?」
さすがに聞き返した。
「アルフォンスそれはどういう」
「そのままです!」
埒が開かないな、とロイが思ったとき黙っていたエドワードが口を開く。
「大佐おはようございます。今日はサボらないでくださいね」
ロイは戦慄した。確かにエドワードなのに、声にはホークアイの鋭さがある。
「ほら! 朝起きたら中尉だったんです!」
「だが……」
アルフォンスの主張にこめかみを押さえるロイ。
どうしたものか、と考える。
『あ、中尉おはようございまーす』
『おはようございます少尉。早速だけど、大佐は中?』
『そうっスよ』
そんな会話がドアの向こうからしてきた。
ロイはほっとした。ホークアイはいつもと変わらないようだった。
ドアがノックされる。
「ホークアイですが」
「入れ」
ドアがひらかれるのをアルフォンスも見守っている。
「失礼します」
ドアが閉じられる。ロイはアルフォンスに大丈夫だと言おうとした。
が。
「どういうことだ! 大佐!」
血相をかかえてホークアイが叫んだ。
ロイは今すぐ机に突っ伏したいのを必死で我慢した。
アルフォンスが恐る恐る「兄さん?」と聞くと肯定の返事がきた。
未だアルフォンスの腕に抱えられたエドワードは「おはようエドワード君」なんて言っている。
ロイはこめかみを押さえながら、確認だ、と呟いた。
「……豆」
「だあれが小さすぎて見えないほどのドチビかあ!」
叫んだのはエドワードではなく、ホークアイだった。
今は小さくないよ、なんてツッコミを入れられるほど、ロイの器は大きくなかった。
とりあえずこの状況から一刻も早く逃げ出したかった。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -