彼氏と別れた、って。
何でわたし一松と居酒屋でこんな話してるんだろ。
そもそも私からの告白ではないし、大学での友達の友達というポジションの彼からの告白だったわけで。付き合って、キスもして、デートだってして、それなりにお洒落もして、わりと彼女らしくやっていた。それが、私がアニメオタク+ゲームオタクということが彼にばれ、「別に気にしてないよ」と言って笑った奴の顔は若干引き攣っていた。いや、絶対引いてるだろお前。前は飾っていたアニメのポスターも剥がしたし、ゲームイベントだって行かなくなった。私は趣味を潰してまで彼と向き合っていたというのに、「ごめん、やっぱり無理だった」の一言で終わったのだ。これって理不尽だと思わない?

「あー、まあその程度だったんじゃないの」

その程度のレンアイだった、確かに。それでもやっぱり悔しいとか悲しいとかそういう想いはあって、少し涙ぐむ。こういうのはチョロ松とかトド松の方が話を聞いてくれて慰めてくれそうだし、一松は面倒くさがって「どうでもいい」とか言いそうなのに。意外にも傷心の私に優しく愚痴一つ言わずやけ酒に付き合ってくれていた。

「何か今日の一松優しいね」

「あ?まあここはお前の奢りだしそんくらいはね」

「普通はこういう時「元気出せよ」って奢ってくれるもんなんだけどね、まあ話聞いて付き合ってくれてるだけで感謝してますよ一松くん」

あ、もうこんな時間か。お店に入ってから三時間が経っていた。そろそろ出るかと会計を済ましお店を出た。川沿いの道を二人で黙って歩く、この気の遣わない沈黙が心地良いなぁ。ふと見上げると雲が少なくて星空がいっぱいに広がっている。

「うはーっ、一松、星がきれ…」

隣を歩いていた筈の一松に声をかけたけど、そこに一松は居なくて。後ろを見ると立ち止まっている一松が黙って夜空を見上げていた。あ、同じこと思ってたんだなって嬉しく感じた。

「俺に、」

「んー?」

「…俺に、すれば」

さっきまで聞こえていた道路を走る車の音や、路地裏から聞こえていた猫の喧嘩の声、居酒屋から聞こえてくる楽しそうな笑い声、流れる川の音すらも聞こえなくなって、ただただ自分の心臓の音が大きく身体中に鳴り響いた。こんな、子供の頃に読んだ少女漫画みたいな台詞を生で聞くなんて。しかも自分が言われることになるなんて。
何も言えなくて、ただ立ち尽くしていると一松は静かに言葉を続けた。

「俺、お前を幸せに出来る自信なんてない。金ないしクソみたいな性格してるし。けど」

ジャージのポケットに手を入れながらだらしなく歩く一松が私にゆっくりと近付く。

「お前が元からクソオタクなの知ってるし、そんなの気にせずずっと好きでいてやるよ」

さっきまで高鳴っていた胸はまだ早く鼓動を続けているけど、何ていうか一松のその上から目線な台詞がおかしくて思わずぷっと吹き出した。それでも彼の気持ちが嬉しくて、笑ったことに対して少し拗ねた様子の一松に触れるだけのキスをした。


「…一応聞くけど、一松酔っ払ってないよね?」

「酔ってたらもう青姦でお前のこと無理矢理犯してたかな」

「真顔で言うなよ怖いわ!」

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