あたしは子供の頃から泣き虫で、弱虫で、言いたいこととかはっきり言えなくて。昔から「よわむし」って男の子に苛められてた。そんな時決まって現れるヒーローみたいなやつ。赤いパーカーがあたしにはヒーローの赤いマントに見えた。
「こいつのこと泣かすのは許さねーからな」
いつもふざけてるくせに、そういう時は小さくったって男らしさを魅せるんだ。たまにおそ松くんは「こいつに謝れ」って相手の男の子と喧嘩までする。自分よりも自分を大切に想ってくれていることがとても嬉しかった。喧嘩は困るけど、でもそんなのずるいじゃん。好きにならない方がおかしいじゃん。
「なんで、おそ松くんはいつもあたしを助けてくれるの?」
「何でって、好きな女の子守るのは当たり前だろ?」
そんな言葉さらっと吐いて、傷だらけの顔で照れくさそうにへらへらと笑う。聞いたこっちが恥ずかしくなって、身体中の血液が顔に集まってくる感覚がした。自分でも「ああ顔赤いだろうな」と思って俯いたら案の定おそ松くんに笑われた。
「お前、顔真っ赤だぞ。」
誰のせいだよ。
「ゆ、夕日のせい、だから。」
俯きながら呟くようにして答えるとおそ松くんは へー、ふーん と半笑いの言葉が聞こえてきた。
「まだ昼間だけど、な」
「うるさい…でも、ありがと…」
「おう。」
「おそ松くんは、さ。ヒーローみたいだよね。」
そんな昔のことを思い出してまた一口お酒を呑む。無意識に頬が緩んでいたのか隣のやつに笑われた。
「あー?なになにるりちゃん、にやけちゃって。いいことでもあったー?」
もうおそ松はそんな昔のこと覚えてないだろうなと思い、何でもないと誤魔化した。
「お前もさー、彼氏とかいないわけ?」
「…おそ松だっていないでしょ」
「俺はほしいよそりゃ、めちゃくちゃほしいね。いつだってほしいよ。作れるもんならつくりてーよ。」
「わかったわかった!あんたが兎に角彼女欲しいのはわかりました」
おそ松はちょっと便所、と席から立ち上がってトイレへと向かった。おそ松に彼女がいないのは安心したけど、ほしいんだあ…。あたしもいつまであんなニート好きでいるんだろ。何年片思いしてるんだよ。
「よっ、ねーちゃんひとりかい?」
声をかけられ振り向くと顔を真っ赤にしたおじさんがいて、腰に手をまわされた。
さ、酒くさ…っ!
酔っ払いに絡まれるなんてついてないな…早くおそ松帰ってこないかな…。
「いや、あの連れがいるので「おいおっさん。そいつ、俺の彼女だから!」
後ろから聞こえたのはおそ松の声。
ちっと舌打ちをして離れていったおじさんに対して、おそ松は「エロおやじめ…」と隣の席に座った。
「なあなあ、かっこよかっただろ?俺」
「………」
「なんだよー、1度はああいうこと言ってみたかったんだよな。」
昔から変わらないよ。1度じゃなくて何度も助けられてるよ。いつだっておそ松はあたしのヒーローだよ。
「ん?どした?もしかして照れてる?」
「うるさい…でもありがと。」
少しの沈黙の後、「また夕日のせいって言い訳か?」とにやついた。思わずはっとおそ松の顔を見ると、お酒のせいなのか照れているせいなのかおそ松の顔は赤かった。覚えてたんだ、おそ松…。
(おそ松くんは、さ。ヒーローみたいだよね。)
(へへっ、じゃあお前のことずっと守ってやるよ。)
「今でも、守ってくれるんだね…。」
「いや…これからも守ってやるよ、ヒーローだからなっ。」
「…うん。」
そして、赤いパーカーを着た赤い顔をしているヒーローと手を繋いだ。あったかいや。
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