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琥珀色の真ん丸な瞳はリタが展開する青い紋様をまじまじと見つめる。

「何じろじろ見てんのよ。あんたが見たってどうせ何も分かんないでしょ?馬鹿なんだから」
「いきなり酷すぎやしないかリタちゃん」

リタはちらりとソラを一瞥して直ぐに紋様に視線を戻す。大人しくしていたのに何故か罵倒されたソラはがっくりと項垂れた。視界に入れずともソラが落ち込む様子が分かったのか、リタは焦った様に弁解を紡ぐ。

「あ、あんたは魔法を使うんだから魔術は専門外でしょ?だ、だから別に分かんなくたっていいのよ」
「うん、わかんない。でも、ちょっとだけ見ててもいいかな」
「べっ、別にいいけど…邪魔したら承知しないわよ」
「うん、わかった」

それから暫くは静かな時が流れた。突然、宙に浮かぶ紋様から目を離さなかったリタが強く目を瞑る。隣りに座っていたソラは不思議そうに首を傾げて彼女の様子を窺っていた。
ーー少し、苛立ってるのかな。ソラの所見はリタの眉間に寄る皺から得られたものだ。リタから目線をずらして青い紋様に目を注ぐ。

「これ、解けないの?」
「…あんた、見慣れてない癖によく分かったわね」

ソラにはこれがどういうものかさえ分からないとリタは思っていたらしい。だからこそ今これがどういう状態にあるのかなんて絶対に分からないと思っていた。しかし意外にも状況判断だけは出来たらしく、ソラは銀色の髪を揺らして一度頷いた。
ーーま、あたしの手が止まったからそう思ったんじゃないの。天才魔導士は目を細めてソラの横顔を眺め、心の中でそう呟く。非常に残念なことに、その見解は間違っていた。
リタの考えなど露知らず、大魔導師は左手を伸ばして青色に触れる。

「強制解錠せよ、アンロック」
「!」

刹那、紋様がぐにゃりと歪んだ。しかしそれは直ぐに元の形に戻る。リタは眼前の光景に瞠目するが、彼女が本当に驚いたのはこの後のことだった。

「なっ…式が解けてる…!?」

驚きもそのままに、リタは夢中で紋様へ手を伸ばす。ややあって、不意にソラのことを思い出した。

「そう言えばあんた…!」

リタが振り返っても銀色は見当たらなかった。ぽかんと、青の紋様を前にして言葉を失う。

「…な、何なのよ、馬鹿の癖に…」

その後、暫く苛立つリタの姿があったのは、言うまでもない。

馬鹿の癖に阿呆の癖に間抜けの癖に!
(あの子に魔術のことで負けるなんて有り得ないわよ!)


「ちょっとソラ!あんたさっき何やったのよ!?」
「え、なんだっけ?」
「とぼけんじゃないわよ!さっき変な魔法使って術式歪めたでしょ!?」
「え…あ、さっきのか」
「本気で忘れてたの!?あんたってどんだけ馬鹿なのよ!」
「ご、ごめんなさい。どんだけ私はリタちゃんに怒られなきゃなのこれ」
「うっさい!いいからさっさと話しなさいよ!でなきゃ魔術でぶっ飛ばすわよ!?」
「はいすみませんわかりましたお答えします。ええとね、よくわかんなかったけど、リタちゃんの様子からしてなんか難しい式がかかってたみたいだから無理矢理こじ開けたの」
「無理矢理!?」
「い、いやでもね、術式自体には影響ないから大丈夫だよ」
「…あんた、式の意味は分かってないのよね?」
「う、うん。リタ様の仰る様に私めは馬鹿ですゆえ」
「何卑屈になってんのよ馬鹿の癖に。…ったく、もういいわ。やっぱりあんたはあんたってことね」
「え、どういうこと?」
「ただの馬鹿ってことよ」
「…結局辿り着くのはそれなんだね」


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