折原臨也の日常は人間で溢れている。
臨也本人は人間を愛しているので、日常に人間が溢れる事に不満などなく、喜びを感じていた。その喜びに気付いたのはまだ臨也が幼い時の事だった。しかし、臨也は喜びを感じる反面、幼い自分を幾度となく哀れんだ。人間を愛する事を知った自分を哀れんだわけではなく、当時の自分は周りの人間に愛されていない事を自覚しているにも関わらず知らないふりをしている、それを哀れんだのだ。小数の人間でさえ愛してくれない自分の存在はとても歪んでみえていた。「俺は人間が好き」だから「人間は俺が好き」の法則が成り立たない事を受け止めるのがとても悲しかったのだ。
「人間も俺を愛すべきだよ」と言い始めた臨也は自分の思想が周りと少し異なっている事を知っていた。

「嫌いなんだよ」
静雄はばつの悪そうな顔をして臨也に言った。臨也と静雄は屋上にいた。臨也はフェンスに背をつけて静雄はその向かいに立っている。
「俺が?」
臨也はわざとらしく首を傾げてみせながら、また考え事に意識を向けた。
高校に入ってから臨也は面白い事に気付いた。周りと異なっていた自分と同じモノを、持ったヤツが居る事に気付いたのだ。それが平和島静雄だった。しかし、彼は臨也の「愛してるから愛すべき」でなく、「愛してほしい」という願望しか持っていなかった。
だから「人間を俺は愛しているのだから、彼が人間に含まれるのだから、人間は俺を愛すべきで、勿論彼は俺を愛すべき」という臨也の考えは否定された。平和島静雄は折原臨也を愛さなかった。
臨也も「愛してほしい」だけだった。皮肉にも、歪んで見えた自分の存在の様に「愛してほしい」という願望まで歪んでしまったのだ。折原臨也は平和島静雄に愛されたかった。

「泣くなよ」
静雄に言われて初めて、自分が涙を流している事に臨也は気付いた。
泣いているなんて自分でも信じられなかった。それだけ個人に執着する事は初めてだった。
「泣いてないよ」
少し強がってみた。静雄に向ける感情が人間に向けるソレとは違うとわかった時より、何故か臨也は嬉しかった。自分に対して静雄は「嫌いだ」と言った。それは臨也の想像の範疇であり、静雄が初めて臨也の考え通りにした行動だった。「嫌いだ」と言われる事は臨也にはわかっていた。
しかし心のどこかで期待はしていたのだ。
もしかしたら自分を、折原臨也を平和島静雄は愛してくれるのではないか、と。
「好きだよ」と言って笑ってくれるのではないか、と。

少しはにかんで臨也は笑った。その顔を静雄は見ることができなかった。

(告白、聞いてくれてありがとう)



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