おだいじに | ナノ







「どう思いますか?」

「どうって何が?」

「あれ……」

デスクの上に積まれた、色とりどりの花と品。
これが"退院祝い"に送られた品物であると、誰が想像できるだろう。

「この品物全てが女性からの贈り物だそうよ」

「ええ、本当ですか」

ホークアイ中尉はため息をついて、それから足早に自分のデスクへと向かった。

「本当助かるわ、シア。あの人がいない間、よく働いたわね」

「そんな!とんでもないです中尉、私なんか」

「"私なんか"は禁句よ。大佐もそう言ってたでしょ?」

いつだったか。涙を流す私に、彼はそう言った。
"俯くな、顔を上げろ。お前の目指していた場所はここじゃ無いはずだ"
何かに躓く度、自分に言い聞かせてきた言葉。
それを思い出させてくれるライバルや、仲間……彼女たちこそ、私にとって"真の強さ"である、と。

「ホークアイ中尉、そろそろ…」

「ええ、私はまだ仕事が残ってるから……少尉が迎えに行ってあげて」

その方があの人、喜ぶから。
ホークアイ中尉は小声でそう言うと、私から目を逸らした。
……その言葉の真意は図りかねるが、彼女に言われた通り、大佐のお迎えに"一人で"赴くこととなった。



……




車から降りてきたのは、相変わらず自信ありげな表情の、いつもの大佐だった。

「お迎えに上がりました」

敬礼、そして迎えの言葉。大佐は少し驚いた顔をして、それから辺りを見回した。

「一人なのか?」

「ええ、ホークアイ中尉に指示を頂きまして」

「……そうか」

頭上で鳥が啼いた。大佐は微笑むと、敬礼をした。

「ロイ・マスタング、ただいま復帰した」

エンジンの音が遠ざかる。辺りが静かになると、木の葉のさらさらとした音だけが辺りに響いていた。横に並ぶと、私と大佐の身長の差を改めて思い知る。
自信、威厳、気品……直ぐ側を歩く彼の姿に、少しの威圧感を覚えた。
……そして、闘争心も。

「私、大佐がいない間、結構頑張ったんですからね」

「ほう」

「だからすぐに、追い越しますから」

「……アリシア」

ふと、立ち止まる。少尉、ではなく、名前で呼んだ意図を、理解できぬまま。
少し前を歩いていた大佐も、私につられて足を止めた。そしてゆっくりと、振り向く。

「何ですか」

「君は……」

彼は無表情に私を見つめた。
そして一つ咳払いをして、口元を緩めた。

「……いいや、何でもないよ」

そう言って再び歩き出す大佐に、私は唖然とするしかなかった。

「え、ちょっと、何ですかそれ……」

立ち竦む内に、大佐との距離は少しずつ離れて行って。
だから私は、後ろから大声で呼んでやった。

「ロイ!!!」

彼はビクッとして、振り返った。突然のことに、目を丸くして……私はあわてて、言葉を加える。

「……大佐」

私たちの距離は、約5メートル。
なのに先を往く彼に、こんなにも"悔しさ"を感じるだなんて。

「……何だね」

だけど、悔しいだなんて、絶対に言わない。

「……何でも、ありません」

「……はぁ?!」

素っ頓狂な声をあげる大佐に、思わず笑みが溢れる。
手で覆っても溢れ出す笑い声に、遂には吹き出してしまって。

「……何を笑っているんだね」

「だって、大佐……おかしくて」

大佐は呆れた様な、不思議なモノを見る様な目で私を見ると、つられる様に口元を緩ませて、くつくつと小さく笑った。
春先の静かで暖かい晴天に、私たちの笑い声だけが響いていた。
















END












……











for 青金石様


ご退院おめでとうございます!ご養生の甲斐がありましたね…!
今までお世話になったお礼と、「トワイライト」への尊敬の意を込めて…
拙い文章ですが、どうぞ受け取ってください。あ、もちろん返品可能です!笑
アリシアちゃんのお話しを書くのはとても楽しかったのですが、やっぱり、青金石さんの描く二人の絶妙な距離感はどうしても表現しきれませんでした。
いつも素敵なお話しをありがとうございます。
病院でのお暮らしはさぞ辛かったことでしょう。しばらくはごゆっくりとご静養ください。


15.3.31


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