「クレアさん、どうかした?」
 ふわり、と。まだ色づかない葡萄畑を、甘い風が吹き抜けた気がした。意識を引き戻す穏やかな声に、顔を上げる。
 ―――クリフ。ぽつりとそう呼べば、彼はうん、と頷いて、視線でどうしたのかと語りかける。蒼い、深く蒼い眸が、今日の水色の空を背景にして澄んでいた。
「ちょっと、ぼうっとしちゃっただけ。すっかり、果樹園に慣れたみたいだと思って」
「ああ、うん。そうだね。まだまだ分からないことも多いけれど、少しは落ち着いてきたかな」
 その眸が、回想の中のものよりもずいぶん柔らかくなった気がして、それとない話で視線を外す。葡萄の蔓に手を伸ばして、成長を確認するように立ち上がったその背中を見上げ、柵に腰かけたままで不安定な足を揺らした。
 クリフ、私より少し早くこの町へやってきた、私の恋人。私が彼にある一つの告白を持ちかけたのは、時間を遡って去年、まだ雪の降る前の秋のこと。この葡萄畑での、出来事だった。

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