鼻:愛玩:レーガとミノリ


「絶対、何か違うと思うんだけど」
 弱々しい中に、折れまいとする意思を見え隠れさせた声。
 真っ赤な頬をうつむかせて、おずおずと視線だけ上げてくる目。
「何が?」
「だ、だから、あの」
 問い直せばすぐにでも折れてしまいそうで、そのくせ意外と強情なのが、からかいがいのあるところだと彼女は多分わかっていない。ん、と首を傾げて促す。顔を覗いて微笑めば、唇を噛みしめてエプロンを握り、意を決したように口を開いた。
「この体勢がっ!」
 俺の、膝の上で。
 横抱きにされて縮こまったまま、声だけを張り上げた彼女を見て、ああ可愛いと口元に笑みが浮かぶ。悪びれる気なんて、最初からない。
 別におかしくはないだろ、と言えばミノリは納得いかないようで、ぶんぶんと首を横に振った。あ、まずい、と腕に力を入れ直す。やっぱりいつもよりは、力が出ない。
「重いんでしょ」
「別に?」
「嘘。だって風邪引いてるじゃない。私、具合が悪いっていうから来たんだけど」
 むくれる顔をぼうっと眺めていると、聞いてるの、と頬を包まれた。怒っているわりに触れる手が優しいのは、責任でも感じているからか。風邪は感染を繰り返して強くなるというけれど、確かに彼女からもらった風邪は彼女のときより重い。
 まあ、とはいえ。
「具合悪いから、とは言ってないだろ? ミノリが来てくれると助かるって言っただけで」
「……なんの助けにもなってないじゃない」
「はは、本気で言ってるか? それ」
 不服そうな顔の中に、一抹の揺らぎが浮かぶ。どういう意味、と顔を上げた彼女の鼻梁に口づけをして、俺は少しだけ、熱に浮かされるまま本当のことを言った。
「おかげで寂しくも、退屈でもない。助かってるんだ」



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