瞼:憧憬:クリフとクレア


 美しい人だ、という言葉の中に、様々な思いを秘めていた気がする。綺麗な、優しい、強い。青い、悲しい、羨ましい。
 歩き続けてここへ来た僕と身勝手な嵐に押し流されてきた彼女とは、よく似た孤独を抱えていると周りは思ったようだけれど、僕にとっては別物で彼女の方がずっとずっと美しかった。
 神様というのは皮肉だと思う。いつまでも自分を一番悲しい存在だと思い浸らせていてはくれない。僕の前には彼女が現れた。運命にさらわれて、命からがらに。彼女こそが本物だと思った。身勝手にすべてを置いてきた僕と違って。
「クレアさんは本当に、美しい人だね」
 張り裂ける胸のこの醜い声を、どうかどうか聞かないで。愛しく思うのも本当なんです、けれど羨ましかったのも本当だ。
 偽物の悲しみと歩いている僕は弱くてまだ一人で立つことも辛いのに、彼女は傷だらけの足で颯爽と僕を追い越していく。傾げる首にあった痣を、笑う頬に今はなき擦り傷を、貴女はどうしてどこに置き去ってそうして祈っていられるのだろう。
 いきなりどうしたの、と照れたような、訝しんだような顔で笑う彼女は、僕の心中など知ってか知らずか、今日も何かに祈りを捧げる。次に開けばまた強く澄んでいるのだろう瞳を思うと胸が苦しくて、気づいてほしくて、ほしくなくて、ああまだそのままでと瞼に口づけた。



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