芙蓉は薫る


 その横顔を、艶やかな大ぶりの花ではなく。記憶の隅のどこかでいつも散っているような、柔らかい陰のある花に喩えたのはなぜだろう。彼女に告げたわけではない。心の奥で思っただけだ。だがその喩えはまるで彼女に二つ目の名前をつけたかのようにしっくりときて、胸の中では何度も、そう呼ぶことが続いた。
「やあ、ヒカリ」
(――芙蓉の、花)
 散りそうで、咲きそうで。目を離した隙に満開を、或いは散華を迎えそうな花。愛され易く、それでいて不確かに自由な彼女によく似ている。
「ご機嫌、どうだい」
(今日の君は、どちらだろうね)
 ふわり、と。芙蓉は薫る。淑やかに深々と、その眸を細めて微笑む。今日も。


(カルバンとヒカリ)



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