いつからココにいるかって?
そうだな、始まりは汚い酒場。
幼い俺の手を引いて、母親が哀れっぽい声で訴えた。
「どうか、お酒を下さいな」
ハハ、そうさ。多分アル中だったんだね。
だが彼女の手の中には僅かな小銭だけ。とても足りない。

と、そこに、声をかけてきた男がいた。

「おやマダム、可哀相に。金がないんだね。優しい僕が恵んであげましょう。ただし、そのガキと引き替えだよ、どうする?」

それを聞いた母親は、喜び勇んで彼女の息子の手を離し、その手でバーボンを一瓶受け取ると、振り返りもせず酒場を出ていったとさ。

つまりは酒一瓶と交換に実の母親に売られたって訳だ。ココじゃそう珍しい話でもないだろう?

声をかけてきた物好きがまだ年若かった社長さ。昔からあの人は汚い場所をフラフラするのが好きでね。よく犬猫なんかを拾ってきたものだよ。

同じノリで俺を酒場で拾ったあの人は、鼻歌混じりに俺の手を引いていき、俺がそれまで見たこともなかった豪奢なガラス張りの建物に着くと、銃を渡してこう言った。

「さぁ最初のお仕事だ、君の母親を殺しておいで。」

俺はこくんと一つ頷いて、テクテク慣れ親しんだ道を歩き、ボロい我が家に帰りつくと、寝ていた彼女とその客を、



バーン



っとね。


ああ、その時初めて撃ったんだ。最初から狙い通りに弾は飛んだよ。けど血があんなに臭いとは思わなかったな。慣れてないからモロに被っちゃって。洗っても落ちないしね。いつの間にやら慣れたけど。

ん?あぁ、面白い事言うね。そうだね、客の方が父親だった可能性はあるよ。常連客だったからね。顔も見なかったから、今となっては真相は闇の中さ。

まぁそれで、またテクテク歩いて会社に帰って、血を浴びた幼い俺の姿を見て「シュールだ!」ってひとしきり社長に騒がれた後、目出立く"アッシオ"の殺し屋になったって訳。

そんな感じだよ。
今じゃエースとか言われてるけど、当然の話だよな。物心つく頃からやってるんだから。石の上にも3年とか言うけど、俺はもう十年以上だ。平均寿命が短い業界だし、俺はもうベテラン中のベテランだよ。そりゃ名も売れるって。

君も頑張ってね。
あー、君の自己紹介がまだだって?いいよいいよ。どうせ新入りはバタバタ死んでくんだからさ。名前覚える意味ないんだよ。

とりあえず君が1ヶ月この"アッシオ"で生き延びられたなら、その時名前を聞くよ。ハハ、それまでには新入りグーンと減ってるからさ、覚えやすいのなんのってね。

あれ、青くなっちゃって。気ぃ楽にしてよー。どうせ逃げられないんだし?
うん、一度"アッシオ"に登録されたらね、死ぬか正式に退職するまでは絶対逃げられないから。逃げたら現職の殺し屋が追ってきます。例えば、俺とか?
割とあるんだよねー。心が痛むよー。

まぁ自分の運の悪さと浅はかっぷりを恨めって。ドンマイ、名も知らぬ新入り君。

アサシンズ・トロイメライ
(おやすみ、良い夢を)




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