虹の彼方に



「あれ、なんか聴こえない?」

「なんかって何だよ京介?何も聞こえねーけど」

「んー、なんかの歌。え、聴こえね?」

「はぁ?誰が歌うんだよ学校で。音楽室は逆方向だしよ」

「窓開いてるから外からじゃん?にしても京介、お前耳良すぎ」

「だって女の子の声だったからー。…さて、俺次サボんね」

「声の主ナンパしに行くのかぁ!?ちくしょー、なんでこんな奴がモテんだよ」

「諦めろ、この世は顔の良い奴に甘めぇーんだよ」

「ハハハ、そうゆうこと。そんじゃーねー」


遥か空高く 虹の彼方に
子守唄で聴いた国がある

久しぶりの天気で気分が良くて、授業なんて受ける気にならなかったから屋上に来たら、いつの間にか歌を口遊んでいた。声に出してから気付けばそれは有名なミュージカルの主題歌。

虹の彼方の 空は青く
そこでは願った夢は全て叶うの

気分に合っていたのでそのまま続ける。屋上には私ともう一人の他に生徒は来ない筈だけど、下の階に聴こえると不味いので抑えた声で。

いつか星に願うの
目覚めると私は雲の上で
そこではどんな悩みもレモンキャンディーみたいに溶けていく
煙突よりもずっと高い場所
そこできっと貴方は私を見つける

そこまで歌って、背後に声をかける

「立ち聴きとは趣味が悪いわね」

「俺が来たの知ってたくせにー」

屋上に来られるそのもう一人である京介が途中でドアを開けたのには気付いていたけど、歌を止めない程度に私は機嫌が良かった。
京介は隣に腕枕をして寝そべり、ニヤと笑ってこちらを見る。

「なんかリラ随分ご機嫌じゃん。こんな所で歌うなんてさ」

「久しぶりにこの天気だもの」

Skies are blue、と歌の前の部分を晴れやかな顔で繰り返してやる。

「確かに空は青いね。梅雨の晴れ間の屋上は確かに歌いたくなるくらい気持ち良いし」

「でしょ」

「それだからこそ、虹の気配は欠片もないんだけど。なんでそんな可愛らしい歌を歌ってるのさ」

「確かに。だからといって虹が出るような雨の日には私は歌を歌う気分になんてなれないだろうし」

「雨が降らないと虹も掛らないんだよー?」

「そんなありきたりな自己啓発くさい言葉なんてクソ食らえよ」

「ま、『今は雨でも上がれば虹が掛るさ!』なんてのは確かに青春くさくて人気あるね」

「ハ。苦労するから結果があるんだ!って?そんなの負け犬の遠吠えじゃない。雲の上でも虹はかかるんだから、飛行機に乗れば虹だけ見れるわよ」

If the happy Bluebirds fly beyond the rainbow why, oh why can't I?

そう歌の最後の部分を歌って、締めくくった。

「"幸せの青い鳥"なんて言葉がリラの口から出るなんて寒っ!」

「そうゆう歌詞だもの。てゆかよくアンタ私がここに居るってわかったわね」

「歌が聴こえたからねー」

ノンビリ言う京介に、眉を顰める。

「そんなに大きな声で歌ってないわよ」

「窓が開いてた」

「…それでも聴こえる筈ないって」

「えー、おかしいな。じゃあ俺の聴覚のなせる技か、第六感的なものか…、あ。寧ろ愛の力とか?」

「…馬鹿?」

どうせサボろうとして屋上に来たら偶々私がいたとかに違いない。

「いーやマジでマジで。声聴こえてリラの気がしたから来てみたら本当に歌ってんの。ちょービビったー。」

そんな台詞を一切ビビってなさそうな胡散臭い笑顔で宣う。

「わー私京介君に愛されてるんだー。キャーうれしーい」

「うっわこの子信じてなーい。感動するとこよー今の」

「いや聴力だけは信じていいかも。アンタ野生動物並だし」

「褒めてるんだよねソレ?」

「褒めてる褒めてる。本当に聴こえたならすごい聴力よね。outstandingな聴力…いやextraordinary?というか寧ろもうabnormalで」

「わーいどんどん悪くなってるー」



空は快晴、初夏の風が吹く屋上。隣には胡散臭く笑う人間が一人。
虹の彼方の国にまだ憧憬はあるけれど。

「"That's where you find me"」

さっき私が歌った歌詞を意味ありげに京介が歌う。

「だからといってアンタを呼んだ覚えはないわよ」

「えー?呼ばれたと思ったんだけどなー」

その胡散臭い男の横で、割と満足している自分がいる。


"Over the rainbow" ミュージカル「オズの魔法使い」より





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