親父が愛人に渡して当然ながら突き返され、「ああどうして受けとって貰えないのだろうかこんなにも可愛らしい物に託した僕の愛情を!モノが大きい分篭めた僕の思いも大きいというのに!」と歎きながらそれに抱き着いてオイオイ泣いている姿を見て、これに似合うのはこんなオッサンじゃないよなー、と思ったらあるプランが閃いた。
そしてそれから親父を引きはがし、それを担いで一路リラのマンションに向かった訳だ。

着いて部屋の外から伺えば狙い通り電気は消えていてリラは就寝中の模様。まぁ現在時刻は深夜3時12分だから当然だけど。訪れるのに非常識な時間だとか常識的な突っ込みはこの際スルーだ。

合鍵を使って静かにリラの部屋に侵入。そして寝ているリラを起こさない様に細心の注意を払って近づく。リラは一人の時は割と深く眠る質だが、気配に聡い為にそれも出来るかぎり消して。

そうしてベッドに横たわるリラを見下ろした。うん、計画通りいつもの姿で寝ている。
リラは一人で寝る時はいつも横向きで布団を抱き込む様にして眠っている。ぎゅう、としがみついて、更にそこに顔を埋める様にして。その細い身体には脂肪が少ない分寒がりらしい。

少し様子を伺い深く眠っているのを確認してから持ってきたそれを持ち上げた。

それとは、体長1メートル半程のクマ。ツンと尖った鼻につぶらな瞳、丸い耳の内側はピンク色。フワフワの毛に覆われた体に、首には赤いリボンが巻かれている。
まぁ所謂テディベアだ。起源は確かルーズベルト大統領の・・・ってそれはどうでもいいとして、とりあえずいい歳してこんなの恋人に渡そうとしていた親父がどうかしてるよなって話。

まぁそれはそれとして。
リラの抱えてる毛布をそーっとその手から外しにかかる。ん、と唸ってリラも無意識に抵抗するけど時間をかけて慎重に動いて、なんとか外させる事が出来た。そして空いたスペースに代わりにクマを設置。
すると寝ているリラは無意識に無くなった毛布を探すように手を動かし、そこにあったクマに触れると引き寄せる。
そして元々毛布にしていたようにぎゅうっと抱きしめ、そのクマの尖った鼻先の下辺りに顔を埋めた。


作戦完了。
うん、これぞ正しい姿だよな。
愛らしいクマに抱き着いているべきはけしてムサい中年のオッサンじゃなく可愛らしい女のコ。それが世界の定理ってものだろう。たとえそのコの中身が今時の軟弱な男共よりよっぽど男前、尚且つものすごく腹黒かったとしても、見た目さえ良ければ何の問題も生じない。
うん眼福眼福。親父のお陰で汚された目の良い保養になったよ。

一人で満足しながらその完成図を眺める。そんなことは露知らず、リラは呑気に寝息をたてていたが。

「・・・ん、ん・・・」

目を閉じたまま眉を潜め、小さく唸った。

あれ、寒かったかな。
毛布を奪う時に少し捲れてしまっていた掛け布団を肩まで引き上げてやる。
そっとやったつもりだったが先程からの色々な動きの為もあってか、閉じられていた瞼がゆっくりと開いてしまった。

あーあ起こしちゃったか。
今は寝ぼけたようにぼんやり瞬きを繰り返しているが、すぐに覚醒してしまうだろう。目の前に見慣れないクマがあるし、第一俺がいる。他人の気配がする中で呑気に寝ていられるような気楽な性分じゃないのだ、このコは。
他の人間ならきっと部屋に入った時点で起きただろう。俺はベッドまで起こさず来られたけど、俺だって他人であって起こしてしまう事には違いはない。
今も多分、すぐに驚いて覚醒してから「なんだ京介か。勝手に入るなって言ってるじゃない」とでも言って口を尖らせる筈。
そう思い、出来るだけ驚かせないで済むように静かにリラ、と呼びかけてみる。

すると。

寝起きで意識がまだハッキリしていないらしくゆらゆらと定まっていなかった視線が、その声で俺を見つけたのかゆっくりと俺を捉え。

リラは、ゆるりと微笑んだ。
とてもとても嬉しそうな、安心したような顔で。
そして、その笑顔のまま唇が「きょう、」と声に出さずに俺の名前を形作ったのが視界に入ってきた瞬間。

何か考える前に反射的に腕が動いた。
動いて、目の前の頭を撫でる。
何も考えないで取った行動に自分でも意味が解らず、そのリラの頭を撫でている自分の手を眺めるうちに、ようやく感情が追いついてきた。というより、ようやくその時点で自分の行動の原因となった感情に気付いた。


可愛い。可愛い。
このコが可愛くてたまらない。
嵐のように俺の頭を駆け巡ったその感情が、俺の腕を動かして頭を撫でるという一般的に何かを可愛がる時の行動を取らせたらしい。
"可愛い"という感情はさっきクマに抱き着いているリラを見た時にも思った同じものの筈なのに、何故か全然違う想いに感じた。それは今までに感じたことのないような。

自分で感じている感情に戸惑っている間にも俺の手はサラサラとしたリラの髪を撫でていて、リラは猫のように気持ち良さそうに目を細めた後、そのまま瞼を閉じてまた眠ってしまった。
またクマに抱き着き、幸せそうに頬を擦りつけて。

それにまた"可愛い"と思ってしまった俺は正直、途方に暮れた。




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