誕生日になる筈だった一日
「フラれた」
萎れてそう告げると、隣のリラが可愛らしく笑った。
「良い気味ね」
言うことは、全く可愛くないけれど。
「普通そーいう事言うー?思っててもさー?」
ブーブー言ってやると、リラはハッと吐き捨てるように笑ってこう言った。
「だって心底ざまーみろって思ったんですもの」
「そんな傷口えぐるような事言って俺が世を儚んでそこから飛び降りちゃったらどうするの?」
そこ、とリラの部屋のベランダを指差して言う。ちなみに此処は7階。
「どうするかって?とりあえず警察に連絡して、自殺補助を疑われないように証言をどうすればいいか全力で考えるかな」
「そんな現実的な事言われても・・・」
てかちょっとは焦ったり罪悪感に駆られたり俺が死んで悲しんだりしてほしいんだけど。
「うわ・・・ただでさえ傷ついてたのに適切な処置をされなかったが為に悪化したかも・・・」
「適切な処置?」
「普通さー、慰めない?てか慰めてよリラ、優しい言葉と体で」
そう言ってリラの肩を掴んで抱き寄せ、腕の中に収める。
「アンタ発言がエロオヤジみたいね」
俺の腕の中でそう言ってから、首を俺の肩に凭れさせて俺を見上げる。
「だって、別に慰める必要ないわよね?」
「え、なんで?」
「アンタ実際、傷ついてないし」
全然全くこれっぽっちも、と俺を見上げながら続けるリラの視線から逃れる為に、片手で顔を覆う。それでも、堪えきれずにククッと笑ってしまう。
「・・・やーっぱ解っちゃう?」
まだ笑いながら言うと、呆れたような声が返ってきた。
「解らない筈ないでしょ」
「コレで大抵女のコはコロッと騙されるよ?京介クン可哀相ー。私がそばにいてあげなきゃ、って」
覆った手の間からリラの顔をチラリと見下ろす。まだ俺の顔が笑みの形に歪んでいるのが自覚出来るから手はどけない。
「そこが誤算ね。私はそんな可哀相で辛気臭い人間の傍に居たいなんて思わないし。だってなんの得もないじゃない?」
「酷い事言うなぁ。」
俺は顔を覆っていた手を退けた。相手も同じ種類の笑みを浮かべているなら隠す必要はない。
その手でリラの顎を掴む。
そのまま顔を近づける。
キスするくらいの近さで、笑顔のまま秘密めかして囁く。
「そりゃあね?傷ついてなんかいないよ。本当に全くもってどうでもいい数人いる彼女のうちの一人が、他に好きな人が出来たからってフッてきたくらいでさ。でもね、傷ついてはいないけど、面白くはないんだよなー。あんな、ちょっと可愛いだけが取り柄の女に俺がフラれるなんてさ。だから」
やっぱり慰めてよ、リラ。
至近距離で瞳を覗き込みながら、ねだる。
それに不遜に微笑んで、リラが呟く。
「アンタの言い分は解ったけど、それでも私が優しくしてやる理由にはならないわね」
「んー、じゃあそうだなぁ」
思い付いて、ニィ、と笑いながら言ってみる。
「俺今日誕生日だから、とかどう?」
それなら優しくしてくれる?と言って、唇に軽く触れるだけのキスをした。
「誕生日?」
離れた唇が、ハ、と吐息を吐くと共に漏らした。
「アンタの誕生日って年に何回あるの?」
楽しげに、まだ至近距離のままの目が眇られる。
「誕生日がいつっていうのは主に自己申告制だし、それが事実かどうかはどうせ他人には解らないんだから、いつを誕生日にするかなんて本人の勝手で良いと思わない?」
そう言って指の背で頬を撫でると、クスクスと笑う振動が伝わってきた。
「相変わらずブッ飛んだ事言い出すわね」
「今年はまだ君に誕生日祝って貰ってないから、俺には誕生日を主張する権利があるよ」
「へぇ?」
そう楽しげに言って、リラは少し体勢を変えて俺の背に腕を回した。
「うん、まぁ中々面白いから、そうゆうことにしてあげても良いわ」
今日は京介の誕生日、と歌うように続けた。
「やり。じゃあそうゆうことで・・・ね?」
そのまま重心を傾けてソファーにリラを押し倒した。
「急な誕生日だからプレゼントもケーキも無いけど。味気無いわね」
「じゃあコレがプレゼントって事でも良いよ」
「・・・どこのバカップルよ気持ち悪い」
完全に押し倒されているのに全く甘い雰囲気無しにリラが吐き捨てた。
えー、俺は嬉しいけどな、と行為を始めようとして、ふと手を止めた。
「あ、良い事思い付いた。リラ、明日予定ある?」
「別にないけど」
「じゃあ、俺の誕生日明日にするよ」
そう言ってからリラの腕を取って勢いよく体を起こした。
「何、誕生日にしたい事でもあるの?」
急に流れが変わって怪訝そうにリラが聞く。
「うん、だからまずは準備しに買い物かなー」
さぁ行こうねー、と有無を言わさず2人分のコートを持ち、そのままリラの手を引っ張ってあっという間に外に出た。
間を置くと寒いから嫌!!とリラがごねだすので。
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