聖夜の前夜の雪の降る


イヴと当日は勿論お互い恋人と過ごすんだろうから、じゃあイヴのイヴは2人でノエルを祝おうかーと言い出したのは京介。別に反対もしなかったのでイヴのイヴこと23日に京介が私の家にやって来た。

ノエル、というかクリスマスを祝おうといっても別にすることは普段と一緒。食べて飲む。ただメニューがコイツと一緒だと高級かつ妙にこだわった料理になるだけ。

ロゼシャンパンで乾杯して(スパークリングワインじゃなくてちゃんとシャンパーニュ産)、アンティパスト兼ツマミにサーモン、キャビア、チーズ、後はトマトやアボカドなんかを乗せたカナッペを食べ、メインに京介が買ってきた七面鳥(本物)を食べ、キドニーパイを食べ、デザートにクリスマスプティングを、食べない。別にデカイだけのプリンなんて食べたくないのよイギリスさん。

京介もそれは同意見だったらしいのだが、そろそろデザートかなという空気になった時にテーブルに出た箱は2つ。コイツも買ってきていたらしい。こうゆう時にどっちが何を買ってくるかなんて相談しないから、被ることはままあること。

「へぇ、ケーキ部門が被るとは。リラは何買ってきたの?」

京介がお手並み拝見、というようにフフンと笑って聞いてくる。

「私はコレ、デメルのザッハトルテ」

デメル独特の木箱を開く。中に高級感たっぷりに収まっているのは生クリームの飾りなど一切なしの、チョコレートにコーティングされてツルッとしたかなりシンプルなケーキ。オーストリア銘菓ザッハトルテ。

「で、アンタは?」

私もフフンと笑いながら聞く。予想はついてはいるが。コイツがあえてクリスマスをノエルノエルとフランス語呼びしてたのは伏線に違いない。

「俺は形式美を愛する男なんだって」

そう言って京介が自分の箱を開ける。

「・・・あれ?」

出て来たのは京介が出してくるには酷くチープな所謂・・・日本のご家庭でイメージするようなクリスマスケーキショートバージョン。クリームでゴテゴテ飾られてて苺が乗っているヤツ。ついでにサンタクロースとMerryX'mas!!と書かれたチョコレートの板も乗っている。

「・・・ブッシュドノエルは?」

絶対コイツはそれ買ってくると思っていた。

「俺もブッシュドノエル買うつもりだったんだけど。でも買いに行く途中でコレ目に入ってさ。」
逆に食べたことないんだよこうゆうの、となんだか嬉しげに言う。

場に出揃ったところで一つ問題。
お互いデザートまでの時点で中々お腹が膨れているのだ。2つも食べられやしない。

そんな訳で、プレゼンテーションという名のお互い食べたい方(つまり自分の方)の猛プッシュ、スタート。


「ザッハトルテってそもそもクリスマスケーキじゃないじゃん」

「好きなんだからいいじゃない。それより見なさいよ、デメルと並んだ時のそっちのケーキのみすぼらしさ」

「確かに美味しいさザッハトルテ。でもサンタも乗ってないようなそんなシンプルなケーキ食べる気!?このクリスマスの夜に!全く信じ難いよリラ!」

「そんなただの砂糖の塊要らないわ!」

「砂糖の塊!リラには夢ってものがないのか!?」

「ないわよこのロマンチスト」

「サンタを馬鹿にするなよな。聖ニコラウスさんがこんなに大出世して世界中の人気者になったって正に奇跡じゃん。そりゃータダで物くれる人ってイメージ戦略が大成功したおかげだけどさ」

「完全に親の手柄を横取りしてるだけじゃないサンタなんて。名誉毀損の一種よね。てか京介、伏線は回収してよ。ブッシュドノエルならまだ食べる気になったのに」

「本の読みすぎじゃない?普通の生活に伏線なんてないよ」

しれっと言うが。

「アンタにだけは言われたくないわ」

同じくらい読んでるでしょうに。

それからも、こんなコカコーラに踊らされてる聖ニコラウスよりメッテルニヒに敬意を称しましょうよとか、この機会逃すと俺一生こんなケーキ食べそうもないしとか、アンタはなくても私は結構食べて飽きてんのよとか、でも俺はないんだもんとか、もんとか気持ち悪いわこの自己中野郎とか、ハハハもう一度言ってみろよこの頑固者とかあーだこーだと議論、というか口喧嘩を展開し。飲んでたのもあり変に白熱した、かつ低レベルな口論を巻き起こした挙げ句。

「もういいわ!私の言うことが気に入らないなら出ていきなさいよ!」

「ああ出てくよ!此処はリラの家だもんな!どーもお邪魔しましたね!」

バタンッ、と。

ドアが閉まった瞬間脱力した。

・・・くだらないとわかっていながらなんで京介相手だとノってしまうんだろう。

ノリが喧嘩でも相手が本気で怒ってないのなんか解りきった事だし、まぁ遊びみたいなものだ。もしくはじゃれあい。


このパターンで京介が出ていくのもありふれた展開だ。「喧嘩して出ていく」というシチュエーションを確実に楽しんでいる。まぁ10分くらいで飽きて帰ってくるだろう。

やれやれ、と息を吐いてから、アイツそういえばコート着ていってないなぁ、とぼんやり思った。「怒って出ていく」の展開時にはコートを着ていく余裕を失っているべきだという設定らしい。


これは早めに帰ってくるかもな、と窓を見てみる。


「・・・あ、雪だ」

チラホラと舞落ちる雪に、思わずベランダに出てみる。部屋の中が寒くならないようにキチンと窓を閉めて。

雪は、まるでドラマの様に綺麗に降っていた。多すぎもせず少なすぎもせず。

雪が降っていると、回りが無音に感じるのは何故だろう。世界に自分しかいないような気分になる。


外は寒いが、シャンパンと興奮で体温が上がった体には気持ち良かった。

まだ雪を見ていたかったので、クーラーの室外機に腰掛ける。

雪のお陰でぼんやり明るい空を眺めながら、

そういえばアイツが本当に怒った所なんて見たことないなぁ。

と思ったことまでは、覚えているのだけれど。




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