「げ、これ親のサインが必要なのね。」

「いらない本売るだけで?未成年者は不便だよな。俺書こうか?」

「あー、お願い。それっぽくね」

「任せろー。・・・こんな感じ?」

「上手い上手い。寧ろ本物より上手い。こんな平凡な名前に合わないくらいの達筆」

「間垣和夫さん。確かに平々凡々な名前だな。角顔で黒縁の眼鏡掛けてて無趣味で休日は家に居てたまにはパチンコに行ったり。えーと40代後半くらい?なら会社の役職は課長ってトコか。そんなイメージ」

「ピンポーン、大正解」

「マジで?なんて捻りのない人生歩んでるんだ和夫さん」

「ちなみに母親は間垣好美って名前」

「んー、結婚する前はそこそこ人気のOLで、寿退社後は専業主婦。時々ママさんバレーなんてしちゃったり。服の趣味は洗練されていない。日々の生活の平凡さに少し飽きていて、子供を育てるのだけが生きがい。なのにこうしてリラが手元を離れてるってことは、他に世話を焼けるような兄妹がいるはず。割と素直で扱いやすい感じの弟か妹かな。ついでに好美さんは多分俺の趣味の範囲外な感じだな。」

「最後の台詞は余計だけど、大体合ってるよ」

「2問連続正解か。ある意味理想的なくらい個性を感じさせない夫婦だね間垣夫妻。
・・・ってそんなトコからなんで、この間垣リラが生まれる訳?」

「子供に生まれる場所は選べないから」

「身も蓋も無いね。でも本当にそんな面白みのカケラも無い家で育つのかこのリラが。見たかったなー、正に肥溜めに鶴だったろうね」

「別に良いけど人の家庭環境を肥貯め呼ばわりか。でもそこで鶴じゃないフリをしてあげるのが親孝行ってものよね」

「で、程よく良い子で過ごしながら、裏では全力で家を出る道を探ると。だから高校から一人暮らしだったのかー。」

「わかってるじゃない。そりゃあもうあらゆる手を使って親だまくらかしたりしたわ」

「うーん歪んでるね」

「そんなことないわよ。実に愛情に溢れた生暖かい家庭で家族仲も良かったから、私がまともに育つ事が出来たのよ?」

「まともに・・・」

「アンタこそどうなのよ」

「何が?」

「物心ついた時から母親いないんでしょ?アンタがこんなに女にだらしないのって、幼少期に母親の愛情が不足していたが為に人格形成が阻害され、成長してからその代償行為に・・・」

「うわぁ尤もらしく有りそうな精神分析しないでよ。愛情足りなくなかったって。俺は望まれて生まれたんだからね」

「えぇー・・・。信じられないけど」

「本当だって。じゃあ話すよ、信心深い父親の切実な願いを神が聞きとどけた、奇跡と感動のストーリーを」

「わー、胡散臭い」

「俺は親父の最初の妻の子供だから、親父にとっては初めての子供だったんだ。初めて子供を持つにあたって親父は流石に不安になったのか、十字を切り、こう祈った。ああ神様、僕に子供が生まれます・・・」

「アンタのお父さんってキリスト教徒だっけ」

「僕と妻との初めての子供です。しかし問題があります。僕は子供が大嫌いです。見るのも声を聞くのも嫌です」

「え」

「バランス的に美しくない3頭身の身体!耳障りな高い声!愛情を欲するあの貪欲な潤んだ目!思慮のカケラもない本能的で汚らしい行動!寒気がします!
しかし正妻との子ですから僕が関わらない訳にもいきませんし。」

「えー・・・」

「そこでお願いがあります。どうか、どうか神様、僕に子供らしくない子供を下さい。手をかけなくても勝手に育つような、『親?アハハ所詮は他人だよね』と生まれた瞬間発するような、そんな可愛げのカケラも無い子供を下さい。無邪気さなんてクソくらえです!

それで長男なら会社の跡取りなんで、頭の出来も良くないと不味い。尚且つ見た目も見苦しくない程度に整ってるのが望ましいな。鼻垂らした頭の鈍そうなクソガキなんて、僕の美観が許しません。家においてなるものか。

正直人間性は多少歪んでいても気にしません。いや性根の悪さなんてホントどうでも良いです表に出さなければ。寧ろクソ真面目な融通きかない堅物よりよっぽどそっちのが愉快で良いかもですね。

そんな感じでお願いします。神様、貴方は偉大なり!
と、親父は信者の人に『軽々しくするんじゃねぇ』とテロられそうなお祈りを正確にメッカの方角を調べて行った」

「・・・ん?」

「それで生まれたのが俺だった訳だ。流石に生まれた瞬間に例の言葉を発するのは俺にも荷が重かったけれど、その後は成長のかなり早い段階から親父には自分の望み通りの子供だと解った。そこで親父はすぐさまヘリで島根県の出雲大社まで飛んで行き、正式に二礼四拍手一礼して感謝の気持ちを述べた」

「・・・・・」

「おお神様、ありがとうございます!僕はあなたを愛しています!!そして、さぁ次はインドか、と思ったが、部下に『これ以上仕事サボらないで下さい』と泣きつかれ、しぶしぶ西の方を向いて正座し、仏陀を讃えて般若心経を3回唱えようとしたが、足が痺れて1回半で止めた」

「・・・信心深いっていうか、トータルで考えると明らかに罰当たり?」

「多方面に信心深かったのさ。という訳で俺は親父の理想的な子供だから。愛されてるよ」

「!そんな罰当たりな行いしたから天罰下ってこの悪魔が生まれたんじゃ・・・」

「アハハ、悪魔の子供が悪魔でもなんの問題もないさ」


ある日の会話:テーマは家族

(ジーザス!)





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