「「まぁ・・・マズイとは言わないけど」」

イギリス。ロンドン。の、それなりに名の知れた四ツ星ホテルの朝食にて。発した第一声は見事にハモった。

学校は夏休み、あまりお金には困っていない身の上、ワーズワースだのコールリッジ、いやいや渋くフロストといった名詞が掲載されている通常の若者らしくない語彙、「そういえばまだイギリス行ったことないなー」「あ、俺もー」というある日のやる気のない会話、そんなそんなが重なり合って生じたこんなロケーションにての一場面。

一般的にイングリッシュ・ブレックファーストは美味しいといわれている。そして、イギリス人は料理が下手だともよくいわれている。

そんなパラドックスを体験出来る事を楽しみにしながらこの朝食に臨んだのだ。


「まぁ・・・油っこいってのは聞いてたけどねぇ」

フォークに刺したベーコンを眺めながら言う目の前の京介が言う。イングリッシュ・ガーデンに設えられたテラス席が無駄に似合う男だ。テーブルマナーも完璧。

「日本人からみればどこの料理も油っこくて当然ではあるけどね」

あのウェイターカッコイイなぁ、と眺めながら答える。目が合ったのでニッコリ微笑んで、悪いけど貴方の所の自慢の食事は美味しくないわ、と心の中で呟いた。ついでに原因を少し真剣に考えてみた。量が多いのがプラスなのか??しかし単純に味だけで評価すると他に美味しい国が・・・と考えているとある仮説が閃いた。

「ヨーロッパで食べ物が美味しい国といえば??」

「まぁ代表というならフランスとイタリアだろうね」
それが??と目線で問う目の前の男に答えて思い付いたことを述べてみた。

「その美食2大国は普通朝食を習慣として食べない、作らない。夕食が遅いからね。ホテルでさえそうで一般家庭ではトーストを焼く主婦はよほど真面目だといわれるほど。だから実際は不味いイングリッシュ・ブレックファーストが世界的名声を得ているのは・・・」

「・・・比較される対象がないから、ってこと??」

「たぶん、ね」


他のヨーロッパの国々の朝食事情までは知らないが、ヨーロッパグルメランキング朝食部門は層が薄いというのは確かなんじゃないだろうか。


なるほどね!!マイナー競技なんかも下手でも競争相手が少なくて表彰台に登れたりとかするしと感心して頷く京介を見ながら、我ながら一緒に海外旅行していて同じ部屋で一晩を明かした男女二人にしちゃ潤いの無い会話してるよなぁと思った。幸いにも日本語なので近くでこっちをチラチラ気にしている髭がセクシーなウェイターさんは自分の所の食事がボロクソに言われていても解らないけど。

私達2人とも見目は悪くないので傍から見れば艶っぽい会話をしているように見えたりするだろうか。


私達は恋人ではない。友達と言ってしまうのにも抵抗がある。そんな相手はお互い別にいて、どうも私達はいつもこんな議論めいた話をしているが、私もコイツも普通の友達や恋人にはちゃんと普通に喋る。普通にとは、テレビや音楽、共通の友達、あとは恋愛の話のこと。

モットーは他の人が理解出来る話題をみんなと同じ意見になるようにということ。もちろん話方だってこんな乾いたのじゃなくて女の子らしく。目の前の男は軽ーく。深い事話す脳みそ持ってる奴なんていないしね、となんの躊躇いもなく言うコイツは人間として最低な奴、関わらない方がいいという気もするが、こうして2人で旅行してたりする現在だし、最低のくだりはお互い様だと自分とそっくりな笑い方で笑われる。


お互い一目見た瞬間に解ってしまった、目の前のコイツは自分と同じ人間だと。「世間の普通の善人達」を見下すと同時に恐れていて、自分を偽って同じソレを演じずにいられない人間だと。2人とも自分が善人等ではないと気付いていながら。善人はそうでない人間に対してはとても残酷だから。悪だと知られれば正義のミカタに成敗する大義名分を与えてしまうから。

同じだと気付いてからは何故か離れられない。

近くに居れば同属嫌悪に陥ったりするし、演技をせずにいられて疲れはしないけど生産性もないというのに。

かといってふとした時に相手が世間を相手の演技に疲れて暗い穴に捕われそうになっているのを見るとまるでそれが自分であるかのようにゾッとして手を伸ばさずにはいられない。

そうして定義する言葉のない奇妙な関係は続いている。近いのは共演者??
共犯者??


それか同好の士かなぁ。
確かめる為にテーブルの上のバラの花を見て「病むバラよ」と呟やけば「ウィリアム・ブレイク」と即答された。教養が同じくらいという相手ってなかなかいないからってのもある、と一人で納得した。


イングリッシュ・ブレックファーストが本当に美味しいかについて

(さぁて、この後どうしようか)
(・・・ロンドン塔でも行く?)







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