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あったかくて、綺麗で、嬉しいんだけど少しこそばゆい。小さい時はそんな風に感じていた。見つめられると胸が震え、息苦しさに眩暈をおこしそうになったのは、いつからだろう。それでも会いたい気持ちは変わることがないのだ。







忍術学園に入学してから何回めの帰省だろうか。夏休みや秋休みといった長期の休みは、宿舎を離れて実家へ帰るのだ。休みは勿論嬉しいが、それだけではない楽しみがじわりじわりと広がって、頬が緩むのを隠せなくなる。


「藤内、顔がニヤけてる。」


呆れた顔で話かけてきたのは、同じ三年でろ組の富松作兵衛。同じくろ組の迷子コンビを捕獲するのは、最早彼の役目として定着している。


「明日から夏休みだもんな!」

「家に帰れるから嬉しいんだろ?」


作兵衛の後ろから顔を出したのは、迷子コンビの神崎左門と次屋三之助だ。作兵衛から伸びた縄がそれぞれの腰に括られている光景も、もう見慣れたものだ。


「おつかれ…そんなにニヤけてた?」

「ニヤけてた。そんなに家に帰るの楽しみなのか?」

「いや。家に帰るのが、っていうより………」

言いかけてはた、と気づく。何を言おうとしていたんだ、俺は。ちょっと油断していた。


「っていうよりなに?」

「わっ、数馬!?孫兵も!?」


振り向くと、同じ三年は組の三反田数馬とい組の伊賀崎孫兵が顔を覗かせていた。


「な・何だよ皆して…」

数馬と孫兵だけでなく、他の三人もじっとこちらを見ていて、無言で続きを促しているものだからたまったものではない。


「何でもないよ。」


慌てて取り繕うも、そのまま流してくれるはずもなくブーイングが飛び交う。


「えぇ〜それはないだろ。」

「今明らかに何か言いそうになってやめたよね。」

「はけ〜」


いや、じゅんこに夢中な孫兵と、作兵衛は違った。


「お前たちもう勘弁してやれよ。」


言い寄る三之助、数馬、左門を作兵衛が宥めるも、一度起き上がった好奇心を静めるのはなかなか難しいらしい。三之助達がやめてくれることはなく、ついに言われてしまった。


「会いたい女子でもいたりして。」

「真面目な藤内が?」

「こら三之介、左門!からかうんじゃねえよ。藤内すまね…え」

「………っ!」

「「「「え」」」」


なんで。なんで解ったんだ?いや、解ったんじゃなくて三之助は多分冗談で言ったつもりだったんだ。どっちにしろ不意につかれた図星だったから顔は熱くなる一方で、ここから上手くごまかせる方法なんて思いつかない。ああほら、じゅんこに夢中で我関せずだった孫兵でさえ目を見開いてこっちを見てる。


「まさか…本当にそうなの藤内?」


「ちっちが…!!」


いち早く覚醒した数馬が問うが、肯定なんてした日にはきっとこいつらに根掘り葉掘り聞かれるんだ。そんなの恥ずかしすぎて死んでしまう!だから必死で否定した。


「でも、」

「っとにかく!全っ然そんなんじゃないから!」


いたたまれなくなった俺は何か続けようとしていた数馬の声に耳を貸す余裕もなく、気がつけば全速力で逃げ出してしまっていた。


「行っちゃった。」

「あれはどう見ても」

「ああ。」

「まさか藤内に、」

「春がきた。」


残された四人が呆然と俺が去った方向を見つめていたなんて、知りたくもない。

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