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夏休みはあっと言う間に過ぎ去り、いよいよ学園へ戻る日がやってきた。それは、名前姉との別れの日だという意味でもある。
「それじゃあ行ってきます。」
「別れるまでちゃんと名前ちゃんを護るんだよ。」
「藤内くん、名前をよろしくね。」
見送りに出てきた両親達に頷いて歩きだす。すぐに名前姉が手を繋いできたからちょっと恥ずかしかったけど、決して振りほどいたりはしない。昔よくやっていたから今更だし、じき離れてしまうこの温もりを、忘れてしまわないように。
「ねえ藤内。私ね、次に会えるのはいつだか解らないけれど、絶対藤内のことは忘れないから。」
寂しそうな顔で、切なそうな目でそんなことを言う名前姉がなんだか狡いと思った。心臓が、一際強く高鳴る。
「だから、だからね。藤内もたまにでいいから、私のこと思い出してほしいな。」
ぎゅ、と握られていた手に力が篭る。馬鹿言わないでくれ。そんなの、そんなの当たり前じゃないか。
「当たり前だろ。たまに、じゃなくていつも思ってる。俺が名前姉のことを忘れるわけないじゃないか。」
強く握り返せば、不安を色濃くしていた顔が笑顔を取り戻した。やっぱりこの人には笑顔が似合う。
「そ、か。そうだよね。私達幼なじみだもんね……えへへ。」
目尻に溜まった涙を指で拭って笑うその姿を、素直に可愛いと思ってしまった。