6
月曜日、すっかり熱がさがった俺は先週の事を思い返して激しく後悔していた。熱で朦朧としていたとはいえ、なんで話したこともない苗字さんにあんなに甘えてたんだろう。
(あああ、恥ずかしすぎて消えたい!)
教室で苗字さんに会ったらどんな顔すればいいんだろう。登校中もそんなことばっかり考えていて、校門で会った友達と話していても上の空だった。
「兵助、もう熱はさがったの?」
「うん。」
「今日提出の課題があるの知ってた?」
「うん。」
「今日の体調はどうなんだ?」
「うん。」
「兵助、今日は豆腐の舞を披露してくれるんだよな。」
「うん。」
「「「「……………。」」」」
「あ。」
教室に着く前に苗字さんを見つけてしまった。と思ったら、苗字さんと目が合ってしまった。
「………(どうしよう、気まずい)」
「なんだ、何かあったのか?」
急に声をあげて黙り込んだ俺に訝しむ三郎が声をかけるけど、苗字さんから視線を外せない。ついに三郎まで俺の視線を辿ろうとしたとき、可愛らしい声が届いた。
「おはよう久々知くん。もう熱は下がったの?」
その瞬間、己の失態が今までより鮮明に蘇って、恥ずかしさに思わず俯く。それにほら、やっぱり三郎も雷蔵も、ハチに勘ちゃんも目を丸くして俺と苗字さんを見比べているのが余計にプレッシャーになる。
「うん…その、金曜日は迷惑かけてごめん。」
「気にしないで。病気の時って一人じゃしんどいもん。風邪、よくなってよかったね。」
「あ、うん。ありがとう。」
きっと今でさえ顔は茹蛸みたいになっているに違いないのに、苗字さんの笑う顔を見たら何故か更に頬が熱くなった気がして。
じゃあまた教室でね、と先に行った苗字さんの背中を見送ったら、今度は視線を外すことができなかった。
「なあ兵助、今の誰?」
「うちのクラスの苗字さんだよね?仲良かったっけ。」
「いや、金曜日に初めて喋った…。」
「その割には仲良さそうだったね。」
「迷惑かけたってお前何したんだ?」
「……っ、」
「兵助顔真っ赤だけど。」
「何があったか、勿論聞かせてくれるよな?」
面白いものを見付けた時の顔をした三郎と、止める気配のない三人に、逃げられないと観念した。
己が失態か君の笑顔か
(この熱の原因はどっちだろうか)