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朱く染まる空を見上げながら、陽が沈むのが早くなったなあと冷える両手に息を吹き掛けていると、名前を呼ばれて振り返る。視界に捉えた見知った顔に今度は体ごと振り返り、返事の代わりに彼らの名前を呟いた。
「竹谷、不破君」
こんな所で何してたの、と問う不破君に空を見ていたと返せば、一人で寂しい奴、と竹谷が笑ったので足を踏みつけてやった。変な唸り声をあげてうずくまる竹谷にざまあ、と今度は私が笑い、それを見た不破君が苦笑する。こんな何気ない時間が私は好きだ。もっとも、それも長くは続かないんだけど。
「お、雷蔵ここにいたのか。苗字さんこんにちは」
「はっ、鉢屋君こんにちは…」
「俺は無視か三郎」
向かいから駆けて来た彼、鉢屋三郎君は竹谷と不破君と同じクラスで、彼らはとても仲がよろしい。特に鉢屋君は不破君が大好きなようで、不破君と居るとかなりの確率で出くわしている。鉢屋君とは何度か話したこともあるし、竹谷達という共通の友達もいるんだから私ももっと絡んでもいいものなんだろう。でも、
「あっ、私そろそろ行かないと…またね」
「えっ、おい苗字」
既に走り出していた私は呼び止める竹谷の声に気付かないふりをして、彼らが見えなくなる場所まで全力で走った。ちらと振り返り、誰もついて来ていない事を確認して足を止める。走った事とは別の事で上がっている息を整えようと深呼吸しようとしたその時だった。
「苗字さんて結構足早いんだな」
「ひっ!?」
嘘、誰もいないと思ったのに何で。聞き覚えのありすぎる声に固まった体を必死で動かし背後に立つ人物を見た瞬間、嫌な汗が伝った。
「は、ちや、くん」
全然気付かなかった、何故私をつけて来たの。色々な考えがいっぺんに頭の中を駆け巡り、混乱して何も言えない考えられない。そんな私に気付いているのかいないのか、鉢屋君はあくまで調子を崩さず言葉を続ける。
「苗字さんって私の事避けてるよな?」
「えっ!……っと、そんな事ない、と思います…」
「苗字さん嘘つくの下手だな」
あっさりと見破られてしまった。バレていたのか。言い逃れの出来ない状況にかつて無い程心臓が暴れだして呼吸がし辛い。私何かしたか、と続ける鉢屋君に必死に首を振る。今すぐ逃げ出したい。けれどそれを許さないと言うかのようににじり寄る鉢屋君。縮まる距離に堪えられなくなり顔を俯けた。
「じゃあ私が嫌いなのか?」
「っそれはない!あ…」
「……へえ」
思わず上げてしまった私の顔を見て、鉢屋君は何かに気付いたように口元を緩ませた、ように見えた。すぐにまた俯いたから解らないけど。ああ顔が熱い。まさか、まさかバレてないよね。縋る様な思いは、けれど簡単に打ち捨てられてしまった。
「いつもは快活な苗字さんがこうも変わるとはね」
これは、絶対バレてる。何でこの人の前だとこうも解りやすくなってしまうんだろう。自分が憎くて拳を堅く握り締めていると、耳元に何かが触れるような感覚を覚える。
「私、もっと名前と仲良くなりたいな」
「…………っ!」
耳が、全身が沸騰したみたいに熱い。とける様に体から一気に力が抜けていく。なんとか頭だけ持ち上げると、とても楽しそうに笑う鉢屋君が視界に映った。
こうかはばつぐんだ
名前で呼ぶなんて、狡い
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仲良くして頂いているなっちゃんへ誕プレを兼ねて
なので夢主はなっちゃんをイメージして書きました。なっちゃん、これからも仲良くしてね\^o^/