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彼女と僕が知り合ったのは一年生の時だった。
緑豊かに生い茂り、蝉の鳴き声が響き合う校庭で、僕は初めて彼女に声をかけた。彼女の事は同学年という事で顔と名前位は知っていたものの、それまで話した事なんてなかった。なのに何故急に声をかけようと思ったのか、それは今でもよく解らない。ただ、ぼんやりと遠くを眺めている彼女の額に浮かぶ光の玉が、輪郭を伝って流れ落ちるのを見て、何とも言えない感情に胸を締め付けられた感覚だけは覚えている。
「雷蔵、また何か悩んでるの?」
図書委員の仕事が暇すぎて思い出に浸っていた僕の顔を覗き込んだのは、四年経って女性らしい柔らかさを得た彼女だった。
「違うよ。名前と初めて話した時の事を思い出してたんだ。」
「私と?」
首を傾げる彼女の仕草が愛らしくて、思わず頬が緩む。いつの間にか向かい側に座り込んでいた彼女の頭を撫でれば、気持ち良さそうに目を細めてくすくすと笑う。
「雷蔵がこうやって私の頭を撫でるようになったのも、一年生の時からだよね。」
「そうだね。」
それを覚えているなら、あの約束も覚えているだろうか。初めて君の頭を撫でた時に交わした、あの約束を。ああ、もし覚えていたとしても、彼女は本気にしていないかもしれないな。
「ねえ名前、」
「うん?」
「…いや、何でもないよ。」
今はまだ、やめておこう。これを言うのは、僕が忍のたまごを卒業してからだ。一人前になって、自分に自信を持てるようになる日まで、大事にとっておこう。
あの約束はまだ有効ですか
(大きくなってもずっと一緒にいようね)
(約束だよ)