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高校生にもなれば女の子達は毎日色恋に浮足立って、誰が格好良いだの誰と誰が付き合っているだの、教室ではそんな話ばかりが繰り広げられている。
そんな中、男の子を格好良いと思った事も、そもそも恋をした事も、そしてこれからする予定も無い私は、はっきり言って浮いていると思う。

白い半袖がじとりと肌に張り付き不快感を煽るこの季節、教室の窓からぼんやりと蒼穹を眺める私は、脳に直接響くかの如くクリアな声に思考を引き戻される。


「苗字何見てるんだ?」


顔だけ振り向けば、この前の席変えで隣になった男子生徒、竹谷八左ヱ門がそこにいた。まあ自席に座っているというだけなんだけど。この席になってからというもの、やたらと話し掛けてくるようになった彼を一瞥して、簡潔に答える。


「空。」


直ぐに戻した視線が再び捉えた蒼穹には、眩く輝く太陽が煩い程にその存在を主張している。思わず目を細めていると又してもかけられる竹谷の声に、軽い眩暈を覚える。


「空に何かあるのか?」


一方的に終了させたつもりだった会話はどうやら彼の中ではまだ続いていたらしく、何がそんなに嬉しいのか、実に爽やかな笑顔を浮かべたまま、竹谷は私の回答を待っている。

実を言うと私は竹谷が苦手だ。彼の笑顔はあの太陽を彷彿とさせてその眩しさに直視できないし、何より本人が無駄に爽やかで爽やかで爽やかすぎて、自分とは住む世界が違う人だと認識している。

そんな訳で、彼とは必要最低限以上の会話をしようとは思わないし、目を合わせる事もできない。だが困った事に、彼はこうして毎日私に話し掛けては何度も言葉を紡ぎ、会話の継続を望む。そしてそれに根負けした私は、観念してようやく身体を彼の方へと向けるのだ。


「雲と太陽が。」

「ぶっ!」

「?」


無駄な言葉はなるべく省いて、至極簡潔に質問に答えた。彼の興味を失せさせ、早く会話を終わらせる為だ。なのに竹谷は興味を失くすどころか、逆に吹き出し腹を抱えて笑い出した。私はそんなに面白い事を言っただろうか。


「くくっ…そりゃ、空にあるのは、雲と太陽だよな……っは、苗字ってやっぱ面白いわっ…」


目尻に浮かぶ涙を指で拭いながら、必死で息を整えようとする竹谷。こんな馬鹿笑いでさえも、彼の笑顔は変わらず眩しいんだと。そう妙な感心をしていたら、思わず口に出してしまっていた。


「竹谷って太陽みたい。」

「くっ……は、?」


ぽつりと呟いた言葉は、竹谷の笑い声に掻き消されてもおかしくない程小さいものだったのに、彼にはしっかりと届いていたらしい。ぴたりと笑いを止めた竹谷が、真顔で私を凝視する。


「それ、どういう意味だ?」

「え…っと、竹谷の笑顔が、眩しくて太陽みたいだって…」

「……………っ、」


見た事が無い、真剣な竹谷の雰囲気に気圧されてしどろもどろで答えれば、何故か顔を押さえて突っ伏する竹谷。気分でも悪くなったのか、それとも私が気に障る事を言ったのか。恐る恐る声をかけると、竹谷は小さく唸りながら顔を上げて、私を見据えた。


「それ、今の俺にはすげぇ殺し文句だわ。」

「え?」


回りくどい言い方では、鈍感な私には伝わらない。頭を掻いて何かを決意した風な竹谷は、射抜く様な視線で私を捉えて言い放った。


「つまり、俺が苗字の事を好きだってことだ。」


初めて向こうから逸らした彼の顔は耳まで真っ赤で、私はそこで漸くその言葉の意味を理解した。今きっと、私の顔も彼とお揃いのように真っ赤に染まっているに違いない。



3限後、10分間の出来事

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