top > rkrn > 泣くな馬鹿

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不測の事態に陥ったときには慌てず騒がず、落ち着いて現状把握に努めよう。冷静になって考えれば、そこにある活路も見失わずにすむはずだ。


よし、改めて確認してみよう。
左には木、右にも木、後ろにも木々が生い茂り、目の前の景色も同様だ。そしてそのどれもが見覚えのないものばかり。さあ現状確認は終わった。冷静に分析してみよう。


「うん、迷った。」


忍術学園の方向も、自分が来た道も解らない。地図も耆著も持っていない。完全に迷子だ。困った、もう日も暮れかかっている。人気の無いこの山の中、本格的に暗くなれば、いくら私がくのたまといえど危険だ。風に揺れる木の葉の音と、遠くで響く獣の雄叫びに身震いする。


「ん?あれは……富松だ!」


木々の隙間から遠くに見えた萌黄色に目を凝らすと、同級生の忍たまの姿があった。一瞬何でこんな所にとも思ったけど、きっといつものように、迷子になった級友達を捜しに来たんだろう。彼についていけば学園へも帰れるはず。これを逃す手はないと、私は彼の名を呼びながら駆け寄った。


「富松ー!」

「んあ……苗字?」


お前何でこんな所にいるんだよ、と訝しむ富松をなんとかごまかして、迷子を捜す手伝いを申し出る。手伝うふりして一緒に行動しようという考えだ。これなら遅くなっても学園には帰れるし、私が迷子な事もばれない。一石二鳥!と内心喜んでいたら、富松の予想外の発言に、目が点状態になってしまった。


「じゃあ俺はあっちを探すから、苗字は向こうを探してくれ。」

「えっ」

「え?」

(しまった、手分けするという考えはなかった)

「………おめぇ、もしかして迷子じゃ?」

「まっ、まさか!」

「じゃあ別々に行動しても大丈夫だな。もしあいつらが見つからなかったら先に戻ってていいから。」

「え…」


そう言って富松は背を向けて茂みに消えて行った。


(うそうそうそ本当に置いてった!?)


富松はいつも、なんだかんだ言いつつ迷子の面倒をみていて優しい奴だと思っていたから、まさか本当に置ていかれるとは思わなかった。


(それとも私がくのたまだからかなあ)


ただでさえ一人で迷って焦燥してるっていうのに、実は富松に嫌われていたのかと思うと、私の精神状態は一気に不安定さを増した。そしてそれは呆気なく崩壊して、頬に熱いものを伝わせる。


「お、おい泣くな馬鹿!」

「うぅ……ふ…え?」


聞こえるはずのない声が聞こえて顔を上げると、いなくなったはずの富松が目の前にいて、思考が停止する。何で戻って来たのかは解らないけれど、焦っている富松は私を泣き止ませようと、何か色々言っている。だけどごめん、富松。一旦出た涙はなかなか止まってくれないんだよ。


「…っく、富松、何で、戻って、来たのっ?」

「あ?……お前が意地はってるから、ちょっとからかってみたんだよ。はじめっから本気で置いてくつもりは無かったから。」


ばつが悪そうに頭をかいて視線を落とす富松。置いて行くふりをして近くの茂みで様子を伺っていたら、私が泣き出したから慌てて飛び出して来たらしい。


「でもやりすぎちまったな、すまねぇ。」

「んっ…だいじょ、ぶ。私が、嘘っ、ついたから…」


やっぱり富松は優しかった。私を置き去りになんかしていなかったし、こうして謝ってくれたから、もう心は落ち着いた。なのに溢れる涙と嗚咽は私の意思とは反対に、留まる事を知らない。そんな私を見て何を思ったのか、富松が急に腕を引っ張った。
軽い衝撃を感じたと思った時にはもう私は富松の腕の中にいて、富松の両腕が私の背中を、幼子をあやすようにぽんぽんとたたく。富松がこんなに近いのは初めてだ。汗と土が混じった富松の匂いに、頭がクラクラする。


「とっ、富松!?」

「かっ、勘違いすんなよ!これはお前が泣き止まねぇから…お前が泣いてっと数馬と藤内がうるせぇからな。」


この吃り方だと、きっと照れているんだろう。私の身体はまだ富松の腕に捕らえられたままだから確認はできないけど、今富松の顔は真っ赤になっている気がする。


「それにその…俺も、調子狂うし、よ…」


そんなこと言われたら、富松のこと意識しちゃうじゃんか。でも富松は特別な意味なんて含ませてないんだろうなって考えたら、むかついてきた。私だけドキドキさせやがって、卑怯なやつだ。



泣くな馬鹿

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