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「どんどーん!待たせたなお前達!」
「七松先輩ボール見付かったんですか…って!ななな何を担いでらっしゃるんですか!?」
砂埃を舞い上げながら走って来る小平太を振り返った滝夜叉丸は、ありえないものを担いでいた先輩の姿を見て、ぎょっとする。
滝夜叉丸に倣って振り返った後輩達もまた、同様の反応を見せた。
「よし、委員会を再開するぞ。」
「いやいやいや、ちょっと待って下さい!」
この委員長に振り回されるのはいつもの事だと思っていたが、今回はその比ではない。
「ボールを探しに行って何故女子を攫って来るんですか!」
「攫うなんて人聞き悪いぞ。お嬢は作法委員会から連れて来たんだ。」
あなたの場合はそれが攫うって事です、なんて思っても言える訳もなく、とりあえず気を失っている様子の彼女を降ろしてあげるように伝える。
滝夜叉に言われてようやく名前の意識が無い事に気付いた小平太は、自分の上着を丸めて枕代わりにし、木の根元に彼女を寝かせた。
(この人にも紳士的な面があったんだな)
「うわー綺麗な人ですね。」
「本当だ。」
「うちの生徒じゃないですよね?高そうなもの着てるけど、この人誰ですか?」
いくら気絶しているとはいえ女性の顔をまじまじと覗くなんて、と注意をしようとした滝夜叉丸だが、彼の性格上、綺麗と言われては黙っていられるはずもない。自分もちらっと覗いて見れば、なるほど確かに美しい顔をした娘だった。
(まあ私ほどではないがな)
「彼女は仙蔵の遠縁でな。いいとこのお嬢らしいんだが、お家騒動があって仙蔵を頼ってきたらしいんだ。」
「え。そんな方を七松先輩が気絶させて…」
「「「……………大変だー!」」」
三之助の呟きに、思っていた以上に事態が深刻だと受け止めたのは、根本の原因である七松小平太以外の面々だった。
「う…」
「「「「!!」」」」
今の大声が刺激となったのか、目の前の少女が薄らと瞼を上げる。
これには全員静まり、彼女が完全に覚醒するのを固唾をのんで見守っている。
「あれ…ここ、は?」
「気がつかれましたか!ご気分は?どこか痛むところはありませんか?」
「え!?たっ…!」
滝君、と続けそうになった口を慌てて押さえた名前に首を傾げ、吐き気があるのかと勘違いする滝夜叉丸。大丈夫、と言おうとした名前だが、ふと思い留まる。
この様子では滝夜叉丸は自分だと気付いていない。ならばここは、
「はい…あの、どこか人目につかないところがあれば案内をお願いしたいのですが。」
「(ん?いやに聞き覚えのある声だな)解りました。ではこの滝夜叉丸がご案内つかまつります。」