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十歳になった私は彼との約束通り、忍術学園へ入学した。表向きの志望理由は「行儀見習いと護身の術を身に付けるため。」けれど両親は別の目的のほうが大きいと思っている。名前は本当に小平太君が好きだねぇ、と微笑ましげに送り出してくれた。
私の心境なんて知られたくないからそれで良い。でも彼に入学したことを知らされては気まずいと思ったので、何度も釘をさしていた。
「本当に内緒だからね!あっちの親にもごまかしといてよ!!」
「はいはい。卒業して一人前になるまでは秘密、なんでしょ?」
どうやら娘の恋路を見守っているつもりらしい。嘘をつくのは心苦しいけど、もし彼に会ってしまったら自分が冷静でいられるか解らない。それを防ぐためにはこれくらい仕方ないと腹を括った。
「やっぱりまだ、完全には消しきれてないんだな。」
別に恋をしていたわけではないけれど。お互いに大切な友なのだと信じていたから、彼にとってはそうじゃないという事は、私の心に重くのしかかって。
「忘れなきゃ、立ち上がれない…。」
その日、私は忍術学園の大きな門を叩いた。
(もう、どんな顔して会えばいいのかわからないんだ)