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「さて。活動に入る前に自己紹介をしておくか。」
事態を把握するのに精一杯だったが、そういえばまだ名前を知らない人が何名かいる。仙蔵の指示で今まで黙っていた他の作法委員達が順番に名乗り始めた。
「一年い組、黒門伝七です。」
「三年は組、浦風藤内。」
「そして私が委員長で六年い組の、立花仙蔵だ。」
綾部に聞いて仙蔵だけは知っていた名前だが、ここで漸く作法委員全員の名前を知る事ができた。自分も名乗り、全員がお互いの名前を知ったところで今日の活動内容が宣言される。仙蔵から発せられたその内容に、名前の思考はまたしても置きざりになった。
「今日の委員会は名字を練習台として化粧の練習を行う。」
「…………え?」
正気に戻って抵抗らしい抵抗も出来ない間にあれよあれよと話は進み、名前は化粧道具を広げた作法委員に取り囲まれる。仙蔵の指示の元、作法委員達が名前の顔に化粧を施し髪を結えば、誰が見ても美しい娘が出来上がった。
「「「……………。」」」
「ほう、予想以上に映えるな。」
「可愛いよ、名前。」
「ななななっ、何言ってんのあやちゃん!?」
言われ慣れない言葉に名前は真っ赤になって恥ずかしがるが、言った本人である綾部は無表情で全く動じていないのだから、なんだか負けた気がして悔しい。その様子を仙蔵がニヤニヤしながら見ているとも知らず、綾部から視線を逸らした名前は俯いて羞恥に堪えている。そんな状態の中、名前に追い撃ちをかけるような一言が放たれた。
「でもこんなに綺麗に仕上がったのに、制服のままなんてちょっと勿体ないですね。」
「なるほど……いい事を言ったぞ、兵太夫。」
(笹山君よけいなことを!)
仙蔵の思考が読めるわけではないが、嫌な予感しかしないのは確かだった。
「喜八郎、お前はどう見立てる?」
「……そうですね。名前は薄桃色が似合うんですが、今日は大人っぽいので、藤色がいいと思います。」
「あれか。うむ、良い見立てだ。」
作法委員にだけ解る会話に名前が疑問符を浮かべていると、いつの間に取り出したのか高価そうな着物一式を抱えた兵太夫と伝七、藤内が後ろに待機していた。申し訳なさそうな顔で名前を見ている藤内とは対照的に、非常に楽しそうな笑みを浮かべる兵太夫の顔が妙に印象的だった。