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「ううぅっ…やっぱり毒虫かあ。」
佐武君と夢前君を見送って、一人で虫の捜索を開始した。探している虫の特徴を聞けばやはり毒虫だったらしくて、ただえさえも虫は苦手なのにちゃんと捕獲できるだろうか、と先ほど安請け合いをした自分を呪いたくなる。
「いやいや一年生もやってるんだからこれくらいできないと。」
それにやっぱり危険な場所で捜索する一年生を放って行くなんてできないし、これでよかったのだ。
「よおーし、がんばるぞ!」
毒虫探しを始めて少し経った頃、事件は起こった。
罠を慎重に避けながら虫のいそうな茂みや岩を調べていると、かさこそと耳障りな音が聞こえた。こんな音を出すものの正体は大体予想できるけど、それを確かめる勇気は残念ながら持ち合わせていない。けれどきっとほとんどの人もそうだと思う。だって、その音は自分の耳から限りなく近い所から聞こえる気がするんだから。
「……………っ!!」
少しの刺激でどうなるか解らないから動けないし、声も出せない。恐怖と気持ち悪さに震え上がったところに、救いの声が聞こえた。
「ちょっとじっとしてろよ。」
いつここに来たのかわからないけれど、状況を察してくれたその人は私の肩に手を置いて反対側の肩を弄る。恐くて恐くてぎゅっと目を閉じていたら、その人がもう大丈夫と言ったので、恐る恐る瞼を持ち上げた。
「ごめん、こいつ生物委員会で飼ってるヤツなんだけど脱走しちゃって。どこか刺されたりしてないか?」
ああ、やっぱり毒虫だった。多分刺されてはいないだろうけど、あんなのが肩に乗ってたと思うと改めてぞっとする。ていうかこの人忍たま、しかも上級生だ。どどどどうしよう!
「あ…どこも痛くないので、多分大丈夫だと、思います。」
「そうか。でも何か異変があったらすぐ医務室に行けよ。」
「はい。あの、助けてくれてありがとうございました。」
「いや元々俺達が逃がしちまったのが原因だし。悪かったな……………なあ、お前名前は?」
「えっ?」
お礼を言ったらさっさと退散しようと思ってたのに、何で名前を聞かれちゃったんだろう。焦る私に気付かずにこの人は自己紹介を始めた。
「俺は五年ろ組、生物委員会委員長代理の竹谷八左ヱ門だ。」
「あ…えっと、くのいち教室四年、名字名前です。」
「名字?もしかして虎若達を手伝ってくれてるのってお前か?」
「はっ、はい。」
「そうかお前が……ありがとうな、あいつら一年なのにこんなとこまで来たっていうから心配したんだ。」
一瞬竹谷先輩が何か考え込んだように見えたけど、すぐに真夏の太陽のような笑顔を浮かべて私の頭を撫でた。あやちゃんや滝君以外の男の人にこんなことをされたのは初めてで硬直してしまった。すぐにでもこの場から逃げ出したいのに。
「おっと、見付かった事早くあいつらに知らせてやらないと。あ、今度お礼するから。またな名前!」
「えっ!?」
竹谷先輩の爆弾発言でやっと身体が動いてくれたけど、一難去ってまた一難。先輩からお礼なんて私にはハードル高すぎます!