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不自然でない程度に存在感を消して。塹壕も蛸壷もなんのその。下手すると実習授業よりも軽やかな足取りで、目的の場所に辿り着いた。
「たしかいつもこの辺で集まってたはず…あ!」
見知った人物を見つけて、目的地が近付くごとにバクバクいっていた心臓が緩やかになる。
「滝くん。」
滝くんこと平滝夜叉丸くんは、私が普通に話せる数少ない忍たまだ。
「名前?珍しいな、お前がこんなところまで来るとは。」
私を見た滝くんは目を丸くして驚いていた。
「ん。普段なら絶対来ないよ。今日はこれ。」
そう言って抱えていた書類を滝くんに見せる。
「ふむ。体育委員会への届け物か。」
「そう。運悪く先生に捕まっちゃって。他の子もみんな用事があって代われなかったんだ。」
言いながらしゅん、と垂れる私の頭をぽんぽんと撫でてくる滝くんを見上げると、仕方ないな、とでもいいそうな眉を下げた笑顔で私を見下ろしていて。
「ではそれは私から委員長に渡しておこう。」
その言葉に救われた私は思わず滝くんに抱きついてしまっていた。